文スト 短編 | ナノ
 君愛/見知らぬ執着

欠伸が出るほど簡単な任務だった。

敵対組織の殲滅任務後の残党狩り。残っているのは相手側の首領の側近。中々強力な異能力を持っているという噂だったが、実態は大したことがなく己の身体を強化するだけのもの。

誰も使っていない廃倉庫に逃げ込んだようだがすぐに捕まるだろうと踏んでいたが、まさかこんなことになるとは。

「ゲホッ……」

近くで待機していた太宰の目の前で廃倉庫が爆発した。乗り込んでいた数人の構成員がそれに巻き込まれたが、腹が立つことに彼女の異能力によって負傷者は無し。

────彼女を除いて。

地に伏している千尋は傷だらけの血塗れで、意識が朦朧としているのか視線は虚ろ。太宰と共に待機していた部下が慌てて車の手配をしているのを聞きながら太宰は千尋を見下ろした。

「何、してるんだい」

太宰の問いに千尋は答えない。当然だ。死にかけているのだから答える余力などないだろう。

しかしそれが非常に腹が立った。彼女のことは嫌いだ。傷を負おうが誰かに抱かれようが太宰には関係ない。関係はないけれど、その苦悶の表情を自分以外の手によって浮かべているのだと思うと非常に腹が立った。

そもそも、だ。異能力で部下を扶ける余裕があるのならば自分が逃げればよかったのだ。なのに自分の身を挺して、死にかけて、意味がわからない。

君は、私のものだろう。

森が太宰の為にと彼女の地位を用意したのだから、即ち千尋は太宰のものだ。だというのにそれを理解せず勝手に死にかけて、腹が立たない訳がない。

げほ、と咳き込みながら血を吐く彼女。このままでは吐血が気管に詰まってしまう。だから────口づけをした。誰が見ていようが関係ない。じゅ、と音を立てて血液を吸い上げ、そのまま近くの地面に向かって吐き出す。

それを何度か繰り返していると車の手配が済んだようで、太宰は傷だらけの千尋に外套をかけてやりそのまま抱き上げる。

「あの側近って捕まえたら拷問するんだっけ」
「はっ、そう聞いております」
「そう。じゃあ紅葉姐さんのところじゃなくて、私のところに回してよ」
「……承知致しました」

頭を下げる部下の横を通り過ぎながら腕の中の千尋を見遣る。出血の所為か普段よりも青白く、ぴくりとも動かない姿はまるで人形のようだ。

いっそ本当に人形であるのならば、こんなにも胸を掻き乱されないというのに。

ああ腹が立つ。

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