▼ 太宰/どうか安らかに
ちくちくと突き刺さる視線。否、ちくちくなんて可愛らしいものではない。もしも視線に質量があったなら、串刺しになっていたことだろう。
そんな視線を向けてくる上司の様子を窺うと目が合ってしまった。これはやばい。
つかつかと近付いてきた上司に顎を掴まれ、視線を固定される。
「君。作戦が始まる前に私言ったよね、相手にするまでもない三下の殲滅任務だから前に出るなって。なんでここにいるんだい」
「えっとぉ……」
上司の視線が私の頬に向けられているのをひしひしと感じる。そこにピリ、とした痛みがあるので恐らく擦り傷でもあるのだろう。
心配性の上司はこの怪我について腹を立てているのだと察してしまう。しかしその優しさは他の部下にも向けてほしいところだ。
あ、ほら丁度今黒服の同僚が一人、敵の砲弾で吹っ飛びましたよ太宰さん。
「その説教、あとじゃ駄目ですか?ここ戦場の真っ只中なんですけど」
「駄目」
「駄目か
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」
そう。現在任務遂行中、銃撃戦のど真ん中に立っている。奇跡か、それとも小細工か、銃弾に当たることはないが気になるものは気になるのだ。
「その辺りの黒服でも盾にしていいから後ろに下がって。早く」
「流石に可哀想……」
弾除けとしか扱われていない同僚たちについ同情しまう。命をかけて戦っているというのにこんな扱いである。もしも自分が彼らと同じ扱いをされてしまったら、とっくに辞表を叩きつけているところだ。
もしかするとあったかもしれない現在に思いを馳せていると、手を掴まれてしまい歩き始めた上司について行くように足を動かした。
「はぁ……。とりあえず治療だ、早く消毒しよう」
「今黒服くんが撃たれたんですが」
「放っておいても死なないよ」
「流石に死にます太宰さん」
露骨な依怙贔屓に、周囲にいた同僚が恨めしそうな目を向けてきた。このままでは恨みで殺されるかもしれない。南無三、安らかに成仏してくれ。
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