文スト 短編 | ナノ
 織田/生きる意味になったひと

赤髪のあの人を見た瞬間、運命だと思った。
自分はこの人に会う為に生まれ、今まで生きてきたのだと。直感的にそう思った。
あの兄が楽しそうに談笑しているところを見るにかなり仲がいいのだろう。これを利用しない手はない。

「……兄さん」
「何かな、妹よ」

にこりと笑う兄。その笑みが胡散臭いと思うのは身内だからか、それとも自分たちの間に線が引かれているからか。

血縁だからといって兄に特別扱いされたことなど無いし、したこともない。兄が拾ってきたという兄妹を見ていると自分たちの関係がいかに冷めたものなのか判る。

────だが関係ない。赤髪の彼とお近づきになる為に何だって利用する心算だ。

「今の方は一体!?住所氏名生年月日好み趣味今お付き合いしている人はいるのか教えて!!」
「私が言うのもなんだけど、それ犯罪だからね」
「だって!!」
「絶対教えてやらなーい」

カラカラと笑って去っていく兄の背中を見送る。
妹の恋路を応援しようとは思わないのか。そう悪態をつくが、兄は手をひらりと振るだけで此方を見向きもせず去っていってしまった。

人の心がないのかと憤って、それからあの兄にそんなことを期待してしまった自分が悪いのだと思い直す。兄が協力してくれないのなら自力でどうにかするしかない。赤髪の彼は随分と目立つ容姿をしているので情報も簡単に集まるだろうとそう思っていたのに。

「あンのクソ兄貴……ちょっとくらい教えてくれたっていいじゃない……!!」

全く集まらない。判ったことといえば彼はポートマフィアの最下級構成員で、人を殺すような仕事は一切していないということ。それと幾人かの孤児を養っているということだ。名前は織田というらしい。

優しい。好き。

今まで一度も言葉を交わしていないというのに、好きという感情だけが募っていく。兄と言葉を交わしていた横顔を思い出すと胸が苦しくなって、思わず胸元を抑えて道端で蹲っていると頭上から声が降ってきた。ゆるゆると顔を上げると目に映った赤にどくりと心臓が音を立てる。

「どうした。具合でも悪いのか?」
「アッ!?」

心配そうに此方を見ているのは、赤髪の彼織田だった。突然のエンカウントに胸が高鳴って顔に熱が集まっていく。まさかこんなところで会うなんと思いもしなかった。

「……いえ、その、なんでもな」
「顔は赤いが、熱は無さそうだな。……大丈夫か?」
「ハイ……」

手を貸そう、と大きな手を差し出され己の手をその上に重ねる。大きく、かさついた手。兄とも違う男性の手に心の内で叫び声をあげてしまう。もっと好きになってしまう。

彼は此方に異変がないことを確認するとそのまま立ち去ろうと踵を返したものだから、思わず声をあげた。

「あ、あの!私と結婚を前提にお付き合いしてください!」
「考えておこう」
「っ、っ!」

ふ、と笑ってその場を立ち去った織田の後ろ姿を、見えなくなるまでずっと見つめる。
考えておこうと言ったってことは、少しはチャンスがあるってこと!?

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