文スト 短編 | ナノ
 君愛IF/と或る少女と小さくなった名探偵

コナンがその少女を見かけたのはまったくの偶然であった。

鈴木財閥主催のパーティーに招待され、大人たちの会話に聞き耳を立てつつ会場を歩き回っていたコナンの目の前に現れた黒髪の少女はつまらなさそうに休憩用の長椅子に腰かけ、ぱたぱたと足を動かしている。彼女と同じほどの大きさの兎の縫いぐるみも気になるところだが、それよりもコナンの目を引くのはその美貌。まるで人形のように整った顔立ちに周囲の人間の視線を集めているが、彼女自身は気にしていないらしいようだ。

今のコナンよりも幾らか年上であろう少女は招待客の子供だろうが、辺りに保護者らしき人間は見当たらない。これだけ多くの視線が集まっている中でかどわかそうとする輩はいないと思うがそれでも万が一がある。コナンは自身の保護者である蘭が園子とお喋りに興じているのを確認し、そっと少女に近付いた。

「ねぇねぇ君、お父さんかお母さんは?」
「………」

無邪気な子供を装って声をかけるが、少女はコナンを一瞥することなく黙り込んだままである。それにもどかしさを感じつつ「一人じゃ危ないよ」と言葉を重ねるが矢張り少女は何も喋らない。

「ねえってば!」
「──その子に何か用かな」

苛立ちのまま声を張り上げた瞬間、後ろから冷ややかな声が聞こえてきた。
その声を認識した瞬間ぞわりと背中が粟立つ。誰かが近付いてくる気配など感じなかったのに一体何者だ、と勢いよく振り向くとそこには一人の男が立っていた。

「少年。君がどんな用で彼女に話しかけたかは知らない。けれどね、」

奇妙な男である。黒衣を纏い臙脂色のストールを靡かせる男の顔の半分は包帯で覆われていた。

否、其処だけではなくちらりと見える首元や手首にも包帯が巻かれている。にこにこと人の良さそうな笑みを浮かべているが、纏う雰囲気は威圧的で冷ややかで組織の人間ではないかという疑問がコナンの内で顔を出した。

「そう女の子に怒鳴るように声を掛けるべきではないと思うのだけど、どうかな」
「ご、ごめんなさい……」

笑っているようで笑っていない男の言葉と圧に謝罪を口にするが、男はコナンに然程興味がないようで何も答えず少女の傍らに膝をつく。若しやこの男が少女の保護者だろうか。それにしては年若いような。
男が傍に来たことで少女が漸く反応を見せた。顔を動かし、男を視界に入れる。すると今まで無表情だった顔に緩やかに笑みが浮かんだ。

「お待たせ。退屈だっただろう?」
「ううん、平気。終わったの?」
「粗方ね。後は食事でも楽しもうか」

少女の手を取って立ち去る男と少女の姿を見送って、それから園子の元へと駆ける。普通ではない───裏社会の雰囲気を漂わせるあの男を見逃す訳にはいかないのだ。

もしも黒の組織に繋がる人間ならば、このパーティーで何か起こすかもしれない。それだけは防がなければ。

「ねぇねぇ、園子姉ちゃん。あの人のこと知ってる?」
「津島さんのこと?勿論知ってるわよ!横浜の森コーポレーションの二代目社長よ。あの若さで大企業の社長って凄いわよね」
「ふうん……」

イケメンだし、と目を輝かせる園子に生返事をしながら人ごみに消えていったあの背を探す。が、見つけることは出来なかった。



「あーーーー疲れたーーーー」
「お疲れ様」

スーツも脱がずベッドに倒れ込んだ太宰の後ろを眺めながら、床に落とされた臙脂色のストールを拾って千尋もベッドの上へとよじ登る。するとすぐさま長い腕に絡め取られ、太宰が膝の上に頭を乗せて腹に顔を押し付けてきた。が、今の千尋の体は小さな少女なので勢いに巻けてしまい、そのままベッドに倒れ込んでしまう。

太宰に押し潰されてしまい、その下からどうにか這い出ようと藻掻くがぎゅうっと抱き締められて身動きが取れなくなってしまった。折角用意してもらったドレスが皺になってしまうなァなんて考えていると、太宰の手が腹の上を撫でてきた。

「うーん、やっぱり小さいと抱き心地がよくないね」
「仕方がない。我慢して」
「まァ解毒薬ができるまでの我慢だって判っているけどさ、物足りないのだよ」

つい先日。横濱の夜でひっそりと行われた、とある組織との取引にて千尋は薬を盛られてしまったのだ。幸い命を落とすことはなかったが、気付けば体が小さくなってしまっていた。

このままでも仕事は出来るので問題はないが矢張り色々と問題がある。此方の体を弄る手が怪しく動き、見下ろす太宰の瞳には熱が宿っていて。流石にこのまま行為に及ぶことは出来ないと千尋は思っているが、太宰ならば如何にかしてしまいそうだ。

千尋の小さくなった手を取り、頬ずりをする太宰。行為の最中のような雰囲気を纏わせる太宰に思わず苦言を呈す。

「治くん」
「いいじゃないか。私、よく我慢していると思うのだけど。少しくらいご褒美をおくれ」
「……ちょっとだけね」
「勿論、ちょっとだけさ」

緩く笑って、ゆっくりと顔が近づいてくる。後数センチで唇が重なる、というところで部屋の扉が控えめにノックされた。

「──すみません。警察の者ですが、少しよろしいでしょうか」

太宰の大きな舌打ちが部屋に響いた。

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