▼ ゴーゴリ/刻むもの
白いシーツの上にうつ伏せで横たわる彼女の背にそっとキスを落とす。
大小様々な傷痕が残るその背に触れると驚いたのか彼女はびくりと肩を震わせた。その様子がまるで怯える小動物のようで、ゴーゴリはくつりと喉を鳴らす。
初めてではないというのに緊張しているのだろうか。そんなところも可愛らしいけれど、そろそろ慣れてほしいところではある。
「そんなに怖がらなくても大丈夫だとも!ほんの少し痛いだけだって知っているだろう?」
彼女を安心させるようにそう声を掛けてみるが、彼女は震えてばかりで返事はしてくれない。それに少しだけ寂しさを抱くが、事が進めば縋ってくるのだからここで時間をかけることもないだろう。
次に進もう、と懐から細身のナイフを取り出すと彼女が暴れだしたものだから慌ててシーツに押さえつけた。
「こらこら!そんなに暴れないでおくれよ!ここに僕の名前を刻むのはいつものことじゃないか」
宥めるようにそう伝えるが、彼女は嫌だと繰り返して逃げようと藻掻いている。といっても彼女の手足には枷がついているのだから無意味であるが。
「さあ、今日も僕の愛を知ってね!」
君が判ってくれるまで何度だって付き合うからと笑うと、彼女ははらはらと泣き出してしまった。どうして彼女はこんなにも泣いているのだろうか。
ああもしかしたら嬉しくて泣いているのかもしれない。自分も同じ気持ちだよ、とそんな感情を込めて彼女の背中に鈍色を滑らせた。
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