文スト 短編 | ナノ
 中原/百八本

仕事中、突然現れた彼に目を瞬せる。
あーとかうーとか言葉になっていない声を出している彼は珍しく視線をウロウロとさ迷わせていて、どうしたのかと一人首を傾げた。

「ん、やる」

漸く決心がついたのか、中也が差し出してきたのは一本の赤い薔薇。ご丁寧にも棘は綺麗に取り除かれており、そのまま素手で触っても平気なようだ。
差し出されたそれをどうすべきか悩んでいると、「ん」と手に押し付けられる。ふわりと香る芳醇な匂い。瑞々しい花弁の美しさに目を細めながら中也に問うた。

「どうしたの?」
「あー……あれだ、あれ」
「何が?はっきり言ってよ」
「…………俺と付き合ってくれ」
「えっ」

突然の告白。付き合ってくれ、とは?何処かに出掛けるので付き合ってくれ、とかではなく?そんな意を込めて中也を見つめてみるけれど、彼はそわそわと体を揺らし、その端整な顔立ちは真っ赤に染まっている。
……成程。冗談の類ではないらしい。それならば。

「ンだよ、その顔は。言いたいことがあるンならとっとと言え!」
「……不束者ですがよろしくお願いします」
「あァ!?」

言いたいことがあるのなら言えと言われたので素直に口にした訳だが、彼から返ってきたのは怒声のような言葉。いや、それが驚きからきているものだとは判っているが心底不思議だという顔をされると揶揄いたくなってしまうというのが人の性。
わざとらしく拗ねたような声を出してみた。

「何よ、その反応。断ってほしいわけ?」
「いや、そういう訳じゃねぇけど……」

そんな演技すらも見抜けないほど慌てている中也が何か言おうとしている姿を見てからからと声をあげて笑う。
初めて会った時から七年。こんなに慌てている彼を見たのは初めてのような気がした。

「次は百八本、持ってきてね

悪戯っ子のように笑いながらそう言えば百八本の薔薇の意味を知っているのか、中也の顔が見る見る間に赤く染まっている。

このまま死んでしまいそうな彼が面白くって、「末永く大切にしてよ」と告げるとか細い声で「……死んでも離してやらねェ」なんて言われてしまって。
────とりあえず太宰くんに自慢してこよっと!

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