文スト 短編 | ナノ
 太宰/格好いいおとこ

ぎゅうぎゅうと彼女に抱き着いて、のんびりと過ごす休日。太宰に抱き着かれている彼女は特に何も考えていないようで、ぼんやりとテレビを見ている。液晶画面の向こう側でキャアキャアと騒いでいる芸能人などに興味が湧かず、そのまま彼女の横顔をじいっと見つめた。

彼女は己の顔を平凡やら普通やら言うけれど、太宰はそうは思わない。彼女以上に美しいひとなんて見たことなどないのだ。このまま何時間だって見つめていられそうだ、と思っていると彼女がぽつりと呟いた。太宰にとっての、禁句を。

「この人、最近よく見るよね。かっこいいなぁ」
「…………は?」

ば、と勢いよくテレビに目を向けると最近色んな番組に引っ張りだこだという男が、柔らかな笑みをカメラの向こう側────即ち、此方に向けている。
それを見て彼女が「格好いい」と褒めたものだから、太宰は無言でリモコンを手に取って殺意を込めて電源を落とした。

「今私以外の男を褒めたね?」
「一般論だよ」
「君の格好いい男枠は私だけのものなの!他の男に渡す心算なんて毛頭ないからね!」
「そんなに怒らなくても……」

彼女が呆れたように息を吐く。が、太宰が言葉を止めることはない。
だって彼女に褒められるのは自分だけでいいと常々思っているのに、彼女は簡単にその言葉を振りまく。可愛いね、凄いね、よく頑張ったね。本当はその言葉全てを自分のものにしたいけれど、人のいいところを見つけて素直に褒めることが出来るのは彼女の美点だと思っているので譲歩しているのだ。格好いい、なんて褒め言葉まで他人に譲る訳にはいかない。

「じゃあ撤回して。私の方が格好いいって言って」
「はいはい、治くんの方がかっこいいよ」
「心が籠ってない!やり直し!!」

あんまりにも棒読みだったので思わず苦言を呈す。面倒臭いなぁ、と彼女が考えていることは丸わかりだがここで引く訳にはいかない。

そも、人にどう思われようとも気にしない太宰がここまで執着するのは相手が彼女だからであって、彼女には太宰をこんな風にした責任を取ってもらわねばならないのだ。
だからそのまま、勢いのまま太宰は彼女に向かって吠えた。

「今面倒臭いと思ったでしょう。こんな男にしたのは君なんだから責任取って!」

今日も今日とて太宰治は彼女の「格好いい」でいる為の努力を惜しまない。

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