文スト 短編 | ナノ
 君愛/ちっちゃくなった!

「……おさむくん?」

眼下にいる、千尋の姿をした少女。彼女が着ていた服がずるりと肩から落ちたのを見て太宰は目を細めた。どういうことだと問い詰めてしまいたいのをぐっと堪え、太宰は努めて笑みを浮かべる。
視界の端にいる、今の千尋と同じ年齢であろう少年。意識が無いのか倒れている少年が恐らくの元凶だろう、と目星をつけながら太宰は穏やかに口を開いた。

「君をそんな目に遭わせた奴ら全員皆殺しにするから何があったのか教えて?」

おっとつい本音が。

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

げっそりとしている千尋を抱きかかえ、森の元から脱出する。千尋の恰好はフリフリのレェスがたっぷりついたワンピースに、可愛らしいリボンがついたカチューシャ。真顔を通り越して死んだ魚のような目をしている千尋はきっと散々遊ばれたのだろう。

「薬、ねぇ……」

詳しく話を聞けば、倒れていた少年は千尋のクラスメイトらしい。偶然遭遇した千尋に「怪しい人物を見かけたので追い掛ける」と少年が云うので、止める為に追い掛けて──黒ずくめの男二人組に襲われたらしい。

異能力を使う訳にもいかず昏倒させられ、何か錠剤のようなものを飲まされたというのを聞いてその男たちに殺意が湧いたのとほんの少しだけ安堵した。
彼女の体は縮んでしまったけれど命に別状はないようで。倒れている幼い彼女を見た時、薬物を飲まされたと聞いた時、どれほど絶望したのか屹度千尋には理解できないことだろう。

「……おさむくん、怒ってる?」
「怒っているとも。私に内緒で、勝手なことして。どれだけ肝を冷やしたか判ってる?」
「……ごめんなさい」

しょんぼり、とした顔の千尋の額にちゅ、とキスを一つ落とす。

「もう勝手なことしないで」
「……ん」

約束、と頷いた千尋に太宰は薄く笑みを浮かべた。

「それじゃあ早速高校の方は辞めて、横浜の小学校に編入しよう!その辺りは屹度安吾がいい感じにしてくれるだろうからね!」

楽しみー!と笑う太宰を見て、千尋の顔色がほんの少しだけ青くなったことは誰も気づいていない。

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