文スト 短編 | ナノ
 太宰/拝啓、手折った花よ

太宰治には可愛い可愛い恋人がいる。彼女は誰にも優しくて人気者で、美しくて可愛くて。自慢の恋人────だった、彼女の心を太宰は花を手折るように壊した。
どうして、と涙を零す最後の彼女に愛しているからだよと言葉を返したのは記憶に新しい。
壊れて何もかも判らなくなって、ひとりぼっちになってしまった彼女を太宰は箱庭のような家に囲っている。



「おさ、おさむく」

二人だけしかいない家の中。彼女の啜り泣くような声が響いて、慌てて彼女の元へ駆け寄った。ぴいぴいと雛鳥のよつに泣いている彼女の足元には水溜まりが出来ていて、太宰はああ、と緩く口角をあげる。

「おもらししてしまったのかい?でもちゃんと私を呼べて偉いね」

泣いている彼女を宥めるように声を掛け、頭を撫でてやると涙の痕が残っている顔でへらりと笑う。
心を壊した彼女は幼子のように一人で何かをすることが出来ず、太宰無しでは碌に生活出来ない。それがひどく、興奮する。

私無しでは生きられない彼女。なんて素敵な響きだろう。

うっとりとした顔のまま彼女を抱き上げ、向かうのは浴室。濡れたままでは気持ち悪いだろうと服を脱がせ、シャワーを浴びさせようとしたがここで彼女が抵抗を始めた。

「うううう、や、あーなの!」
「おっと!こらこら、暴れないの。そのままじゃあ遊ぶことも出来ないよ?」
「ぅ……」
「直ぐに綺麗にしてあげるからね」

じたばたと暴れていた彼女だが、「遊ぶ」という言葉にぴたりと大人しくなった。つい先日買ってあげた「玩具」のことを思い出したのかもしれない。随分と気に入ってくれたようだからまた使ってあげよう。
そんなことを考えながら、優しく丁寧に体を洗っていく。口にするものも身に纏うものも全て太宰が管理している彼女の柔肌にはシミひとつ、傷ひとつない。
柔らかさを堪能しながらシャワーを当てると彼女は体を震わせ縮こまった。小さく震えている彼女は何に怯えているのだろう。ううん、と唸って思い当たるものがひとつ。

「そんなに怖がらなくても、君がいい子で居てくれるんならもう苦しいことはしないよ」
「……ほんと、?」
「勿論だとも!」

恐る恐る此方を窺う彼女に笑いかけて、小指を絡ませ「指切りげんまん」と口にするとほっとした表情を見せる。
────どうやら躾と称して幾度か浴槽に沈めたことを今も覚えているらしい。



「遊び」を終え、再びぐちゃぐちゃになった彼女の体を清めながらその顔をじいっと見つめる。気絶するように意識を手放した彼女の寝顔は、その精神が幼くなったとしても変わらずあどけないままだ。

「んぅ……」
「おや、どうしたんだい。眠れないの?それなら温かい飲み物でも」
「おさむくん」

太宰の言葉を彼女の、舌足らずな声が遮る。
とろんと蕩けた顔のまま太宰に擦り寄ってきた彼女は少しだけ背伸びをして──それから太宰の唇に自分のものを重ねた。

「え、」
「んふふ」

満足そうに笑って再び眠りについた彼女を横目に、太宰は湧き上がる激情を押え付けるのに必死になっていた。
彼女が、自分からキスしてくれた!
その事実だけで死んでしまいそうである。
いっそこのまま彼女と一緒に死ぬのも悪くないけれど、今はまだ駄目だ。今はまだ、その時ではない。

「このまま、私が大好きな君のまま育ててあげるからね」

丸まって眠る彼女を起こさぬように気を付けながら抱き締め、そうっと囁く。

───なんで、なんでなの、太宰くん……!
───太宰くんなんて大嫌い!

もう二度と、あんなおぞましい言葉を吐かせてやるものか。

prev / next


×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -