文スト 短編 | ナノ
 中也/消えない痕

真夜中にふと目が覚めた。隣で寝ていた筈の彼女の姿が見えず、中也は舌打ちを零す。
ベッドシーツに触れるとまだ温もりは残っており、彼女が傍から離れてそう時間が経っていないことを教えてくれる。
トイレにでも行ったのか、と思い暫く待つが彼女が戻ってくる気配はなく溜息をつきながらベッドから降りた。こういう時、彼女は必ず。

「……何してンだよ」
「んーと、眠れなくて」

リビングからベランダへ声を掛けると、カーテンの向こう側から彼女の誤魔化すような声が聞こえた。
冷たい風がふわりとカーテンを揺らす。
中途半端に開いていたガラス戸を開け、自分も外へ出ると月明かりに照らされた彼女が少し困ったような顔をしてそこに立っていた。

ふわりと香る、煙草の匂い。それに中也が気付いたことに気付いたのか、彼女は気まずそうに煙草の吸殻をそっと隠す。
煙草を吸うのは彼女にとってストレス発散の一種だ。どうしようもない時一本だけ火をつけて、煙と共にそれを吐き出す。その現場を見つける度に「自分に相談してくれ」と言っているのに、彼女は何があっても離してくれない。

彼女が吸ってる煙草にはいい思い出がないというのに。

「眠れねェなら俺が御伽噺でも読んでやろうか?」
「え、中也そういうの知ってるの?」
「昔チビ共に読み聞かせってやつをやってたからな」

意外、と小さく笑う彼女の手を取って部屋の中へと戻る。煙草の吸殻も、灰皿も片付けるのは明日でいいだろう。ついでに一緒に置かれている数本の煙草も処分してしまおう。
いつまでも彼女を縛り付けるものなんて必要ない。あの赤髪の男と同じ、煙草なんて。

prev / next


×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -