文スト 短編 | ナノ
 太宰/一緒に幸せになろうよ

「私以上に誠実な人間なんていないよ」
「どうして貴様はそう……」

 にっこりと笑いながら言い放った言葉に国木田が呆れたように溜め息をついた。誠実だなんて言葉が似合わないことくらい自覚しているが、こうして口にすることで自分がそれに少しでも近付くことができるのではと考えてしまう。あの、赤髪の友人のように。

なんて無理な話だろうけど」
「何か言ったか?」
「いいや、何も言ってないよ。……は!若しや国木田くん、疲労で難聴に……?」
「難聴ではないしもしもそうだとしたら十中八九貴様の所為だろうが

 揶揄った途端沸騰したかのように怒り出した国木田にカラカラと笑ってみせる。
 誠実、セイジツ。偽りがなく、真面目なこと。真心が感じられるさま。いつか誰かに、そんな風に接することができるようになるだろうかと太宰はぼんやりと考えた。


 
 □


 
 自室にて、すやすやと寝息を立てている彼女の隣に横たわりその寝顔をじいっと見つめる。何の警戒心を抱かず眠っている彼女は安心しきった表情で、その顔を見ているとゆるゆると口角が上がっていく。時刻は既に深夜であるが、睡魔がやってくる気配は全くなく太宰は彼女の寝顔を見つめることに時間を費やす。

 探偵社に入社してから出会った彼女。出会ったその瞬間恋に落ちた。こんなにも誰かに焦がれるのは初めてで、どうしていいか判らなかった。困惑する太宰に彼女は笑って、一つ一つその感情を教えてくれて。漸く恋人になれたけれど、このまま彼女と幸せになってもいいものかと考えてしまう。彼女には誠実で有りたい。けれど、けれど。

 太宰の前職はマフィアである。しかもただの構成員ではなく五大幹部の一人で、悪魔だなんて呼ばれることもあった。そんな自分が、彼女との未来に希望を持ってもいいのか。人並みの幸せを求めてもいいのか。そんなことをふとした瞬間考えることがあるのだ。

「好きだよ」

 囁くような声で愛の言葉を落とす。手を伸ばし彼女の柔らかな頬に触れると、少し高めの体温が伝わってきてその温もりに心底安心してしまう。

「んん……どうしたの、だざいくん」
 ぼんやりとした瞳が太宰を映す。とろりとした声で名前を呼ばれてじんわりと多幸感に包まれる。

「…いや、君のことが好きだなァと思って」
「んふふ、わたしもすきよ」

 するりと胸元に擦り寄ってきた彼女。寝惚けているのか、普段見せない姿にとくり、とくりと心臓が脈打つ。こんな、微睡みのような時間がずっと続けばいいのに。有り得ないことを考えて一人自嘲する。

「ね、だざいくん」

 彼女が笑う。ふわり、ひらりと花のように。

「一緒に幸せになろうよ」
「……どうしたんだい、急に。そんなの当たり前じゃないか」
「そうなの?嬉しい」

 ねえ、太宰くんと呼ばれる。

「二人ならきっと大丈夫」
「…………、そうだね。君が言うんなら間違いない」

 額と額を合わせ、彼女につられて笑う。すると先ほどまで顔を見せなかった睡魔がやっと来たようで、とろとろと目蓋が落ちていく。夢現の中にいた彼女も睡魔に身を委ねているのを見て、太宰も抗うことなく目を閉じた。夢の中でも彼女に会えますように。

prev / next


×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -