文スト 短編 | ナノ
 君愛/獣の夢を見る

血の海に沈んだ彼を見遣る。
物言わぬ死体となった彼が一体何を考え、何を思い、今回の騒動を起こしたのかなんてずっと傍にいた筈の千尋にだって判らない。

ただ判ることは最愛の人は死んでしまって、もう二度と千尋の名を呼んではくれないということだけ。
手を伸ばす。冷たくなった体を抱き締める。嘗て彼が褒めてくれた服に血が滲んでいくけれど、それすらもどうでもよかった。

「どうして、」

いっしょにつれていってくれなかったの。







「っ、」

心臓がどくりと嫌な音を立てて目が覚めた。息を荒くする千尋を太宰が心配そうに眺めている。
ばさりと膝の上から読みかけの小説が滑り落ち、ソファーでうたた寝していたのだと自覚した。いや、それにしても。

「魘されていたようだけど……大丈夫かい?」
「……怖い夢、見たの」

置いて逝かれる夢。死に別れ。
夢の中の彼と目の前にいる彼が重なる。

「あの、ね。治くん」

千尋を安心させるように抱き締めてくれる太宰の腕の中でそっと息を吐く。とくとくと聞こえてくる鼓動に、服越しに伝わる体温に、太宰が生きているのだと心の底から安堵した。
ぼんやりとした意識のまま太宰に告げる。

「ごめん、ごめんね」

ごめんなさい、貴方を置いて逝って。貴方にあんな思いをさせてしまって。繰り返し謝罪の言葉を口にする千尋に太宰は不思議そうに瞬きをしながらも「いいよ」とだけ口にした。

「そんなに不安がらなくても、私は君の全てを許すよ。大丈夫、だから安心し給え」

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