文スト 短編 | ナノ
 君愛/大晦日

部屋の真ん中にでんっと置かれている炬燵で体を温める。矢張り冬といえば炬燵だろうと、太宰は膝の上に乗せている千尋の体を抱き締めた。

ぎゅうぎゅうと抱き着かれながらも気にしていない千尋は、一心不乱に蜜柑を剥いては机の上に置いてを繰り返している。何がそんなに彼女を駆り立てるのか、太宰には判らない。
液晶画面の向こう側で流行りの芸能人たちが盛り上がっているのを見ながら、細い肩に頭を置いてぱかりと口を開いた。

「千尋、あーん」
「ん」

剥いた蜜柑がひと房、口の中へと放り込まれる。それを咀嚼しながら蜜柑を剥き続けている千尋を見つめるが、彼女の視線は依然として蜜柑に注がれたままだ。

「……君、蜜柑剥くの好きだよね」
「楽しい」
「あ」
「ん」

口を開けばまた蜜柑が放り込まれる。まるで雛鳥の餌付けだ。
白い筋まで取られ、橙色だけになったそれを満足そうに見ている千尋に思わずくつりと喉を鳴らす。
好きだなァ。

胸の奥から湧き上がってくる感情。幾ら言葉にしても、行動に移しても、尽きない愛おしさ。どうしたら全てが彼女に伝わるだろうかと思う反面、汚い部分は見せたくないという気持ちもある。はァ、と溢れてしまった溜息を拾った千尋が首を動かして太宰を見てきた。

「そろそろ年越し蕎麦、食べる?」
「んー……」
「眠いの?」
「そういう訳じゃないけど……このままくっついていたいなァって思ってね」
「……仕方ない」

体から力を抜いて太宰の胸に凭れかかる千尋。その表情は見えないけれど、じんわりと伝わってくる温もりにそっと目蓋を閉じる。また来年もこうして彼女と過ごせますように。

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