文スト 短編 | ナノ
 太宰/クリスマスの贈り物

陽が落ちていく街を彩るイルミネーションの煌びやかさに目を細める。
その辺りにいる恋人たちは今から楽しい夜を過ごすだろうに、自分は仕事だ。それを考えると憂鬱である。
はァ、と溜め息を吐くと狭い車内で隣に座る彼がそれを拾ったらしい。くるりと向きを変え、此方を見る彼の瞳は不機嫌そうで心臓がどきりと嫌な音を立てた。

「今から会食だっていうのに辛気臭い顔しないでくれる?」
「だって……折角のクリスマスなのに」
「仕事なんだから仕方ないでしょ」

此方を咎めるような言葉に唇を尖らせる。そう、これから取引先と会食があるのだ。幹部である彼の付き添いということだが、彼がいるのに私が行く必要はあるのだろうか。会食に行くからと華やかなドレスや高価なアクセサリーをプレゼントされたけれど、正直あまり嬉しくない。そんなことを言えば彼が更に不機嫌になることは判っているので口には出さないが。

着飾ることは好きだ。けれどそれは取引先の、好きでもない人間の為ではなく好きな人である彼の為だけに着飾りたい。彼にだけ綺麗だと言って欲しい。そう思う自分は我儘だろうか。

折角のクリスマス、彼と二人っきりで過ごせると思ったのに。この仕事を振ってきた首領に心の内で文句を言っていると、彼に自然な動作で手を握られた。突然のことに驚きつつ横の彼を見ると、窓の外を見ていてどんな表情をしているのか見ることはできない。けれど髪の隙間から見える耳は真っ赤に染まっていて、私は────。

「…………さっさと終わらせて、食事にでも行こう。会食で出てくる量じゃ君は足りないでしょう?」
「っ、もう!太宰くんは一言余計なの!」

揶揄うような言葉に言い返したけれど、胸はドキドキと脈打っており頬が熱い。
これは、これは期待してしまってもいいのだろうか。

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