文スト 短編 | ナノ
 君愛/酔っ払いとハロウィン

ばたん、と玄関の扉が閉まる音が聞こえてきて千尋が帰ってきたのだと知る。
時刻は日付が変わる前。これじゃあ迎えに行けば良かったなと思いつつ、彼女を出迎えるように玄関へと向かえば酒の匂いを纏う千尋が立っていた。

「おかえり。飲み会は楽しかったかい?」
「おさむくん。とりっく おた とりーと」

開口一番言われた言葉に少し反応が遅れてしまった。きりっとした顔をしているけれど、これはかなり酔っ払っているようだ。

「…………どれくらい飲んだの?」
「のんれないち」
「澄まし顔だけど呂律回ってないからね、君」

ふらふらとした足取りのまま家の中に入って行こうとする千尋の腕を掴んで引き寄せる。
一人で帰ってきたのだろうか。いや、今日は尾崎も中也もいると聞いているので此処まで送られてきた筈だ。だがそうだとしても、酒でこんな風になっている彼女を見るのは珍しくむくむくと悪戯心が湧き上がってくる。
先程千尋も「トリックオアトリート」と言っていたし、ここは太宰が悪戯したって許されるのでは?そんな邪な感情に気付いたのか、はたまた偶然なのか、千尋がぷくりと頬を膨らました。

「わたしが、いさずらすうの」
「それは素面の千尋にしてほしいなぁ」

するりと首に回る、千尋の腕。服越しに伝わってくる体温はいつもより熱い。そこから何をしてくれるのか期待しているとゆっくりと彼女の顔が近付いてくる。

「んっ……ふ、ぁ、んん……」

唇が重なり、ちろちろと舌で舐められたので誘うように薄く開けば隙間から入り込んできた。
普段は受け身だからか咥内に侵入してきた舌の動きはとても拙く、もどかしさを感じてしまう。今すぐ押し倒してその体を暴いてやろうか。そんな欲求を理性で無理矢理押さえつけ、千尋の好きなようにさせてやる。
暫くそうして唇を重ねていると、漸く満足したのか千尋の顔が離れていく。ふつり、と切れた銀の糸が名残惜しい。

「んふふ、うばっちゃった

濡れた唇をなぞりながら熱い吐息を零す千尋。
──ああもう、人の気持ちも知らないで。ふにゃふにゃというよりとろとろとした笑みを浮かべる千尋をそのまま押し倒そうとして──────
こてん、と彼女の体から力が抜けた。
まさか。嫌な予感がする。というか十中八九そうだろうけれど、太宰は残りの一割に可能性を賭けて顔を覗き込み、そして叫んだ。

「………………最ッッ悪!起きたら覚えておきなよ!!」

散々煽るだけ煽っといて寝息を立てている姿に思わずそう吠える。いっつもこうだ!!

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