文スト 短編 | ナノ
 君愛/夏を満喫

暑いからプールにでも行こうか。太宰にそう誘われた次の瞬間から千尋は浮かれに浮かれていた。全く顔には出ていないが、内心はウッキウキである。
約束の日まで日々のボディーケアにも更に力を入れ、水着だって新調した。義足を衆目に晒すのは少しばかり気になるが、パレオを巻けば目立たないだろうし気になるならば貸切にしてしまえばいい。
浮かれている所為か珍しいことを考えながら荷物を纏めている千尋に太宰が声を掛けてきた。

「ね、水着ってもう用意した?」
「うん」
「……見せてくれる?」
「いいよ」

浮かれている千尋は、太宰の機嫌が若干悪くなったことに気付かない。現物を見せてもいいがもう荷物の中に入ってしまっている。すぐに見せられるのは写真だろう。
いそいそと携帯を取り出して、自分で撮った写真を太宰に見せると眉間に皺がぎゅっと寄った。
「全然似合わない」
低い声で吐き出されたそれに驚いて太宰の表情を見る。不機嫌だと隠そうともしない顔に千尋は首を傾げた。今回買ったのは黒のビキニ。肌の露出が普通のものよりもちょっとだけ多いそれを、太宰が喜んでくれると思って選んだのだが気に入らなかったらしい。

「駄目。絶対駄目。これ着てきたらその場で剥くから。そもそもどうしてこういうの選んだの?君らしくもない」

ここまで言われると思わず、千尋の浮かれきっていた心が空気の抜けた風船のように萎んでいく。目に見えて苛立っている太宰に言い訳をするように口を開いた。

「……治くん、こういうの、好きかと思って」

だがそれは千尋の勘違いだったようだ。一人で浮かれていた自分が恥ずかしい。目に見えて落ち込む千尋に太宰が叫んだ。

「好きだけど!そうじゃなくて!男心判って!」
「わかんない」
「っ、…………他の男に、あまり肌を見せないで…」
「……判った」

照れたように目を逸らす太宰。それに嬉しくなって口角を緩くあげる。やっぱり貸切にしよう。

prev / next


×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -