文スト 短編 | ナノ
 君愛/プロポーズの日

千尋は意外と朝が弱い。目が覚めたらしっかりと動き出すのだが、そうなるまでが長いのだ。ぼんやりとした瞳でのそのそと動く姿を見るのが太宰は好きだったりする。
その表情のままベーコンエッグが乗せられたトーストを食べている千尋を見つめながら太宰も珈琲のカップに口をつけた。

「…昔はそんな素振り見せなかったのになぁ」
「……んぇ?」
「なんでもないよ。ほら、ちゃんと食べて」

放っておいたら寝てしまいそうな千尋に苦笑いを零す。
────実は朝が弱い、と太宰が知ったのはきちんと交際を始めてからだ。任務で泊まり込むこともあったが、そういう時は全くそういう素振りを見せなかったのできっと無理をしていたのだろう。
こういうところが健気なんだよなァ、と千尋のアシメトリーになっている髪を指先で弄る。

「……ご馳走さまでした」
「あ、起きたかい?」
「…うん、おはよ」

朝食を終える頃にはすっかり目が覚めたようで、千尋は少し恥ずかしそうな顔をしながら食器を片付けていく。寝惚けている姿を見られるのが恥ずかしい、ということだが散々見ているのだから今更だろうに。
カップを片付ける為に太宰もキッチンへ向かい、慣れた手つきで食器を洗っていく千尋の背後にぴたりとくっつく。

「どうしたの?」
「んーん。…大したことではないのだけどね、まるで夫婦みたいだなって思って」

ガチャンッ
思ったことを素直に口からだぜば、何かが割れる音が響いた。何事かと思い千尋の手元に視線を向ければ、先ほどまで洗っていた食器が割れている。

「大丈夫かい!?」

慌ててしゃがんで欠片を拾っていると唖然としている千尋がか細い声で云った。

「ふ、夫婦、って…」

耳まで真っ赤に染め上げたその顔を見ながら苦笑いを零す。
羞恥からか視線を彷徨わせ、太宰を見ないようにしながら皿の破片を拾う千尋を見ながら胸の奥底から湧き上がるそれを口にした。

「ね、千尋。結婚しよっか」

太宰の言葉に千尋は瞳を大きく見開く。それから先ほど以上に顔を赤く染め、小さく震えながら頷いた。
そんな様子に気の利いた言葉の一つも出てきやしないけれど、彼女が心底嬉しそうなので余計な言葉は必要ないのだ。

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