文スト 短編 | ナノ
 太宰/可愛い可愛いわんこ

 いつも自分の後ろを犬のように追いかけていた部下を思い出したのは、よく晴れた日のことだった。
アパートの窓を開け、紫煙が空気に溶けていくのを眺めているとあの頃のことを思い出す。
 芥川同様太宰が拾ってきて、太宰が育てた少女。塵溜めに埋もれても尚生にしがみつく姿に興味を引かれて手を差し伸べた。異能力を持つ訳でもなし、頭脳が優れている訳でもなし、色仕掛けが出来るような体でもなし。拾って育てても何の見返りもない少女を、太宰はずっと傍に置いていた。

「……元気にしてるかな」

 吸っていた煙草の先が灰となり落ちていく。ついこの間再会した芥川はあの頃と変わらず並々ならぬ執着を太宰に向け、強さを認めてもらうと牙を剥いてきたが彼女の姿を見ることは出来なかった。
 存外泣き虫なあの子のことだ、どうせ会いたいけれど裏切り者だから、なんて変に遠慮しているのだろう。ポートマフィアと探偵社の間で休戦協定が結ばれた今、それを気にすることなどないというのに。

「仕方ないなぁ!この太宰さんが直々会いに行ってあげないと!」

 砂色の外套を羽織り、アパートを出ていく。泣いて喜ぶ姿を見れるのかな、と期待していた心が打ち砕かれるまで────あと。



「どうしてそんなに可愛げが無くなっちゃったの!?」
「太宰さんの教育の賜物です」

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