文スト 短編 | ナノ
 君愛/初詣

白地に大輪の華が咲いた着物。頭を動かす度にしゃらりと音を立てる簪。整った顏(かんばせ)に彩る化粧は普段よりも少々濃い。

「……何その格好」
「姐さんが」

その一言で太宰は全てを察する。彼女のことを猫可愛がりしている尾崎にこれでもかと飾り立てられたのだろう。
いつもならばぐったりした顔を見せているというのに、着物を纏った千尋は心做しか嬉しそうでそれが何故だか腹が立つ。

「ふぅん。馬子にも衣装ってやつだね」
「…………」

冷やかしの意味を込めてそう言葉を放てば眉が僅かに下がる。あまり崩れない表情が自分の言葉一つで崩れていく様に胸のモヤが少しばかり晴れていく。
そうだ、他の誰でもない自分の言葉に心が乱されてしまえばいいのだ。───自分が、そうなのだから。

「あの、ね。治くん、その」
「何。言いたいことがあるならはっきり言いなよ」

俯いて、何か言いたげな千尋に向かって冷たく言葉を投げ掛ける。如何してこんな物言いしか出来ないのかと偶に自己嫌悪に苛まれることもあるが、それも全て彼女が悪いのだと心の内で言い訳をしてみる。
……その心の内が知られたら盛大に呆れられるのが目に見えているので誰かに明かすことはないが。

「その、……私と初詣」
「なんで行かなきゃいけないの?」
「…………」

勇気を振り絞って口を開いた千尋の言葉を両断する。すると彼女にしては珍しく泣きそうな顔をしたままそっと俯く姿に罪悪感が刺激されてしまう。
そんなに初詣に行きたいのなら自分ではなく中也を誘えばいいのにと思う反面着飾った千尋が誘いに来たのが自分だということに優越感を抱いてしまう。

ふう、と大袈裟なほど大きな溜息を吐けば千尋の肩がびくりと揺れた。その様子に己の機嫌が上昇していくのを感じながら太宰は彼女に向かって手を差し出す。が、千尋は不思議そうに目を瞬かせるだけでその手を取ろうとはしない。
なので太宰が手を取って、自分のものより小さな手を握る。

「ほら、早く行くよ。どこの神社に行きたいの?」
「……えっとね」

嬉しそうにふわりと笑う千尋。まあ偶にはこうして付き合ってやるのも「恋人役」の義務か、と思いながらも太宰の鼓動は五月蠅く脈打っていた。

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