文スト 短編 | ナノ
 太宰/優しいひとね

優しいひとね、と彼女は笑って云った。
目の前に築き上げられた死体の山など目に見えていないように。少しばかりずれているなと思いながら太宰はその言葉を否定した。

「そんなことはないさ。私が優しいというのなら首領は神様だ」
「あら、首領のことを神様だなんて優しいわね」

会話がかみ合わない。だがそれもいつものことと云えばいつものことなど気にせず会話を続ける。

「私がなんて呼ばれてるのか知らないのかい?悪魔の子だよ、悪魔の子。そんな私を優しいなんて云う君は気狂いかい?」
「確かにそうかもしれないわ。だって私は神様よりも悪魔に助けられたんだもの」

くすくす、くすくす。気狂いだなんて呼ばれても尚、彼女は穏やかに笑っていた。

「ねェ、太宰くん。神様はね、──誰よりも酷いのよ」

そう云った彼女の表情を思い出すことなどもう出来ない。
だってあれから四年の月日が経ち、太宰のことを優しいと云った彼女は土の下だ。曰く、任務の際に流れ弾に当たって命を落としたらしい。

神よりも悪魔を愛し、愛された彼女は地獄へと連れ去られてしまった。その役目は他の誰でもない、太宰だというのに。
空っぽの墓にせめてもの手向けだと花を添える。彼女の好きな花、というよりも彼女が何を好み何を嫌っていたのか太宰は知らないので適当ではあるけれど。

「ああでも、きっと君なら馬鹿みたいに喜んで笑うんだろうね」

遠く、彼女の笑い声が聞こえたような気がした。

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