文スト 短編 | ナノ
 中也/盲目の愛

化け物だと散々言われてきた。人とは違う赤錆の髪、青の瞳。そして人智を超えた力。
陰でひそひそ言うのは味方で、面と言ってくるのは敵。叩かれる陰口にはそれくらいしか差がない。

しかしそれを気にしたことはなかった。だって自分は化け物だと、誰よりも判っているのは自分だからだ。そう言えば尾崎と森はなんともいえない顔をするし、相棒である太宰は心底厭そうな顔をする。自分は事実を口にしているだけだというのに、そんな顔をされるものだから中也はそれを口にするのは止めた。
けれども相変わらず中也のことを化け物だと蔑み、畏怖する言葉は止まなくて、少しだけ疲れていた時。

「とても温かい手をしているのね」

その少女と、出会った。
少女は生まれつき盲らしく、誰かの手を借りねば生きていけない。中也と彼女が出会ったのは道端。荷物を落としてしまい、座り込んで項垂れていた彼女に手を伸ばしたのが始まり。

それから少女と中也の付き合いは始まった。付き合い、といっても滅多に外出することの出来ない彼女の部屋へ中也が異能力を駆使し訪れるだけの関係なのだが。それでもコンコン、と窓を叩けば彼女は嬉しそうに笑って覚束ない手つきで窓を開けてくれる。
何でもない時間。中也がその日あったことを柔らかい表現に変えて伝えれば、彼女は光の映さぬ瞳をキラキラと輝かせて頬を緩ませた。化け物だと誰にも言われない、穏やかな時間は確かに中也の心の拠り所になっていた。

「俺が、怖くねェのか」

いつものように彼女の部屋を訪れ窓際に腰かけて、中也はそんなことを彼女に問うた。
怖くないのか。外からやって来て、外へと帰っていく自分が。見えていない彼女も中也が異能力者だということは伝えてある。
だから怖くないのかと問うた。中也に害されてしまう可能性を考えていないのかと。
彼女は中也の問いにぱちぱちと目を瞬かせ、それから心底面白そうに笑った。

「ふ、ふふふ!今更なことを聞くのね!貴方が怖いのなら私、窓を固く閉めて部屋に閉じ籠ってるわ!」
「意味ねェぞ、それ」

だって鍵が閉まっていようとも、中也はそれを抉じ開けることが出来る。

「けど、そうね。私は盲だから貴方の声を聞いて、貴方の体温を感じることしかできないのだけど──知ってる?貴方の声、とっても優しいのよ」

たっぷりの愛情をこめて、たっぷりの信頼をこめて、内緒話のように囁かれたそれはゆっくりと、けれども確実に中也の心に刺さった。
ずぷずぷと愛情のナイフが心の一等柔らかいところへと突き刺さる。痛くはない。血の代わりに溢れるのは、彼女がくれるものと同じくらいの愛情で。

「……そうかよ」

そう言って、声が震えてしまうのをこらえることしか中也には出来なかった。

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