文スト 短編 | ナノ
 君愛/名前で呼んで!

ずっと昔から不満に思っていることだった。

「中也がね、」

普段の冷たい無表情を和らげた千尋の口から出るのは、太宰もよく知っており毛嫌いしている元相棒のもの。
他の男を話題にしながら楽し気にしていることにも腹が立つが、それはこの際置いておこう。それよりも太宰が気になっているのは。

──中也は呼び捨てなのに私は「くん」付けってどういうこと!?

ただそれだけである。

確かに中也と千尋はずっと昔、それこそマフィアに入る前からの付き合いではあるが彼女の恋人は他の誰でもない太宰なのだ。それなのに、他の男だけを呼び捨てにしているという事実はかなり腹が立つ。

「……治くん?」
「……なんでもない」

きょとりとした顔で首を傾げる千尋に、自分のことも呼び捨てにしてほしいだなんて子供のようなことを云えず太宰はずるずると千尋の膝に頭を置く。
他のことは云えるし、云わせることだって出来るのにどうしてこれだけは云えぬのだろうか。

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