文スト 短編 | ナノ
 太宰/最高の結婚式

今日は人生最高の日である。緩む口角はそのままに長い廊下を歩いていく。
やっと。やっとだ。やっと彼女を自分に縛り付けることが出来る。マフィアであった頃からの付き合いである彼女と今日、結婚式を挙げるのだ。浮かれるなという方が無理だろう。
柄ではないと思いながら白のタキシードに身を包み控室へと向かう。扉を開いたその先には純白の花嫁衣裳に身を包む彼女がいて、太宰は思わず息を飲んだ。

「綺麗だ……」

口から零れた言葉を聞いて、彼女は照れくさそうに笑う。そんな姿に愛しさが溢れて、止まらなくて、太宰は彼女に近づいて、ドレスが崩れてしまわないように気を付けながらそっと抱き締めた。

「私は屹度今日の為に生きていたんだ……」
「、私もよ」

誓いのキスには少し早いけれど、この溢れる感情をどうにかしたくて顔を近づける。

「治さん、あのね」

後もう少しで唇が重なる、といったところで彼女が口を開いた。
それに残念に思いながらも、此方をまっすぐに見つめる瞳に「何だい?」と問うてみる。

「私、ずうっと」

彼女がとても美しい笑みを浮かべる。天使か何かではないのかと思ってしまう程だ。否、己のような人間を慈しみ愛してくれる彼女はまさしく天使だろう。

「貴方のことが嫌いなの」
「……え、」

笑顔で言い放たれた言葉をすぐに理解することが出来ず思考が停止する。今、彼女はなんと言った?
くすくす、くすくす。混乱する太宰を他所に彼女は悪戯が成功した子供のように笑う彼女。悪戯にしては少々質が悪い。少なくともこれから結婚式を挙げるという時に言い放つ言葉ではないだろう。
冗談は、と言いかけて此方を見遣る彼女の黒曜石のような瞳が憎々しげに歪んでいるのを見て口を噤む。

「あの人と私を無理矢理引き剥がした貴方が嫌い」

だって君が欲しかった。

「貴方がいなくなれば傍にいられると思ったのに、私のことも連れ出したわよね。組織に戻りたくても、裏切り者になった私はどうすることもできなかった」

だって君と離れるだなんて考えられなかった。

「あの人を、私のことを探しに来たあの人のことを、笑いながら殺した貴方を私は殺してやりたい」

だって君の心が欲しかった!!!!

「私の方が君に相応しい。私の方が、君のことを愛してるんだ!!」

今更そんなことを言わないで、と言葉を重ねる太宰に彼女は太宰が一等好きな笑みを浮かべる。
ああ良かった、今の冗談か何かで彼女も自分のことを愛してくれているのだと考えていると、彼女は美しい笑みを貼り付けたまま口を開いた。

「ねェ、治さん」

彼女が何かを取り出した。
見覚えのありすぎるそれに息を詰める。何故彼女がそれを持っているんだ。何処で手に入れたんだ、と考えながら、同時に彼女がしようとしていることに気が付いてしまった。

「そんな貴方に、私からの贈り物。受け取ってくれる?」
「待って、ねェ、やめてよ」

彼女は此方の制止も気にせず、黒光りするそれを──拳銃の銃口を己の頭に押し付けた。

「────さようなら、」

浮かべる笑みは、今まで見たものよりも美しくて。
真白が赤く染まっていくのを、ただただ見つめることしか出来なかった。

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