文スト 短編 | ナノ
 君愛/零れてしまうほどの愛を

そういえばあまり自分から愛してるだの好きだの口にしていないと千尋が気が付いたのは、借りてきた恋愛映画のDVDを太宰と二人並んでソファーに座って見ていた時のことだった。

太宰が好きだと言い出してそれにつられて口にするか、促されて口にするか。もしかして自分はかなり酷いことをしているのでは、と抱き締めていたクッションに顔を埋めながら考える。目の前にある画面ではすれ違いから喧嘩が起こっており、それがまた不安を煽ってくる。

もしも、この映画のように喧嘩別れだなんてことになってしまったら。

「……治くん」
「なんだい?」

小さな声で名前を呼ぶと、画面を見つめていた瞳が千尋を見た。
じっと見つめられている状態で言うのは気恥ずかしくて、少々素っ気なく「耳貸して」と言うと太宰は素直に上体を傾けてくれる。
少しだけ背筋を伸ばし、形のいい耳にそっと顔を寄せた。

「……すき」

映画の音に掻き消されてしまいそうな程小さな声。だが太宰はしっかりと拾ってくれたようで、頬を赤く染めると勢いよく距離を取ろうとする。
だがソファーに並んで座っている為そこまで距離が取れる訳もなく。ほんの少し上体が離れただけだった。

「君、なん、え?ちょっ、」

耳を押さえ、常にない程混乱している太宰を見て千尋はゆるりと口角を上げる。
追い詰めるように太宰に抱きついて、そのままソファーの上に押し倒した。

「好き、大好き、……あいしてる」
「っあーーもう!!」

いつもと立場が逆だ、と思った瞬間には体勢が逆転しており千尋は太宰を見上げる。真っ赤な顔をしている太宰に普段の余裕は見えない。
くすくす、くすくす。そんな太宰のことが愛おしくって笑い声を零せば、彼の顔が吐息が当たってしまいそうな程近付いてきた。

「……私の方が君のことが好きなんだけど?」

拗ねたように呟く姿に思わず抱きついた。
穏やかな時間のまま、時が止まってしまえばいいのに。

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