夜が気付く


ふわふわの、青みがかかった銀髪。
くりくりの瞳はまんまるで、その顔立ちは男というより女らしく更には身長も低い。此方の姿を確認するとマレウス!と花が咲いたように笑い近付いてくる。

だからだろうか。
クリストファー・ジーヴルという友人は、マレウスにとって愛でる対象だ。











飛行術の時間。複数のクラスを纏めて行われる授業である。バルガスの「ペアを作れよ〜」なんて呑気な声が聞こえてくるが、マレウスの傍に好き好んで近付いてくる者なんて─────

「マレウス!俺と一緒にやろ!」
「……僕でいいのか?」
「マレウスがいいんだよ」

ふわふわと揺れる青みがかった銀髪。へにゃりと笑うクリスにつられてマレウスも笑みを浮かべる。少し離れた場所からマーベラス!だなんて声が聞こえてくるが聞こえなかったフリをしよう。

何が嬉しいのかニコニコと笑っているクリスは周囲から向けられている視線に気付いているのか、それとも気にしていないのか。

己の背より大きな箒を抱え、マレウスの隣に立つ姿をじっと見つめる。どうして己の傍にいようとするのか、マレウスには判らない。ただ、なんの恐怖もなく純粋に慕ってくれる友人の存在がここまで心地良いとは思わなかった。

「ペアは出来たか?ではまずは箒に乗れるように───」

バルガスの説明を聞きながらマレウスは思案する。
…………ふむ。どうしたものか。妖精族であり既に長い年月を生きているマレウスは箒に乗らずとも空を飛ぶことが出来る。授業に必要だからと箒を持ってきているが、使うことは殆どないだろう。

ではクリスはどうか。
人魚であり、慣れてきたとはいえまだ足元が覚束無いことが多々あることをマレウスは知っている。飛べるのだろうか、とクリスを見てみると案の定箒に跨り僅かに浮かんだ状態で硬直していた。

「うう……。人魚に空を飛べって無茶言うよな……」
「飛行術は苦手か?」
「無理……俺には無理……」

風が吹く度にふらふらと揺れる箒。その度に小さく悲鳴をあげて箒の柄にしがみつくものだから、前傾姿勢になっている。
その体勢でいることが危ないのだが、落ちないようにと必死になっているクリスはそのことに気が付いていない。

ちらり、とバルガスを見る。クリスと同じように箒に怯え、しがみついている他のオクタヴィネル寮生──具体的にいえば、人魚の生徒への指導に手こずっているようだ。

これならばマレウスが少しくらい勝手をしたって大丈夫だろう。咎められたところでマレウスは気にしないが。

「クリス。そのまま箒に跨っていろ」
「えっ」

驚きで声をあげるクリスをそのままに、ふらついている箒に跨る。頼りなさげに魔力を注がれ不安定なそれに己のものを流し込み、マレウスは一気に高度を上げた。

「うわああああ!!」
「落ち着け、僕がついてる」

突然のことに悲鳴をあげ、体を揺らすクリスを背後から抱き締める。すると途端に動かなくなったので、これ幸いと少しずつ高度を上げていく。

腰に回している手に、小さな手が重なる。縋るようにきゅっと握り締めてくるクリス。その手の柔らかさにとくりと胸が鳴ったが原因は判らない。
気の所為だと結論付け、固まったままのクリスに声を掛ける。

「そら、見てみろ。空は美しいだろう?」
「……うん。とっても、綺麗だ」

漸く落ち着いたのか、クリスがふわりと笑う。
柔らかな銀髪が風に靡き、海のような瞳がとろりと蕩ける。

また、とくりと胸が鳴った。
これは気の所為ではない。伝わる体温に、笑う顔にどうしようもなく惹かれている自分がいることにマレウスは気がついた。

青空に浮かぶ海に見惚れてしまったのだと気付いた時にはマレウスの白い頬に朱が走る。こんな感情、生まれてから始めてだ。
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