朝がくる。


長い長い廊下を、短い足を必死に動かして駆けていく。授業の為にこうして移動するのも、陸に上がったばかりかつ身長の低いクリスにとって中々に重労働だ。
教科書を抱え廊下を駆けるクリスにそっと近づく者が一人。

「お主がクリストファー・ジーヴルか?」
「ひょゅ」
「くふふ!いい驚きっぷりじゃのう!」

突然声を掛けられ間抜けな声を上げてしまった。驚いて床に座り込んでしまったクリスの前にたん、と軽やかな音を立てて天井から降りてくる、一人の少年。

切り揃えた髪を揺らしながら笑う姿は大変可愛らしい。が、どこか老獪さを感じさせる雰囲気に気圧されているとそっと手が差し出された。それに警戒しながらも手を借り、立ち上がる。尻もちをついた拍子に散らばってしまった教科書を拾いながら、ベストと腕章の色を確認した。
黄緑色のベストと腕章。───ディアソムニア寮のそれに、少しだけ警戒心が解けていく。

「ええっと…ディアソムニアの奴が、俺に何の用だ?」
「いや、マレウスのことで話があってな」

マレウス、と少年が出した名前を復唱する。つい先日友人となった、妖精族の王子様。何か粗相をしてしまったのか、と思うもののマレウス自身には何も言われていないので大丈夫な筈だ。

いやでも。入学初日でディアソムニア寮の寮長となり、世界でも五本指に入る魔法士であるマレウスに心酔している寮生は多い。故に友人となってからこうして絡まれてしまうことが多いのだが、目の前にいる少年もそうなのだろうか。

「儂はリリア・ヴァンジュール。マレウスの目付役としてこの学園に来ておる」
「はあ…」
「お主、マレウスと友人になってくれたそうじゃの!礼を言うぞ」

ニコニコと笑う少年───リリア。お目付け役、ということはリリアも妖精族なのだろう。髪の隙間から見える尖った耳。血のように真っ赤な瞳の瞳孔は縦に長い。

それにしてもマレウスの目付役に声を掛けられるとは。ちらり、とその表情を見る。リリアはニコニコと笑っていて、敵意など無さそうに見える。が、その瞳は探るように此方を見つめていることにクリスは気が付いていた。
きっと妖精族の次期王に害がないのか見定めているのだろう。王族の友人というものは初めてだが、こんなにも大変なのだろうか。だからといってマレウスと友人をやめるつもりはないが。

「あ奴は昔から友を作るのが下手でのう…。学園にやって来ても駄目かと思っていたが、お主のお陰で充実した学園生活が送れそうじゃ」
「…お礼を言われるようなことはしてないぞ?友達になりたかったからなっただけだし!」

リリアの言葉に平然とした顔のまま答える。
クリスは別に誰かに頼まれたからマレウスと友人になったわけではないのだ。折角出会えたのだから友人になりたいと伸ばした手を、マレウスが取ってくれただけ。それだけなのだ。

そうリリアに伝えると、驚いたように目を見開いて、それから。

「……そうじゃの!」

酷く嬉しそうに笑った。






「王族って色々大変そうだな」
「何言ってんだテメェ」

偶々隣の席になったレオナに憐みの目を向けると、生意気だと頭を叩かれてしまった。
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