夜は思う。


普段からどこか重々しい雰囲気が漂うディアソムニア寮、の談話室。
いつもであれば幾人かの生徒で賑わって和気あいあいとした空気であると言うのに、今日に限っては外観と同じような重々しい空気が漂っていた。

一般生徒はいない。いるのは────寮長であるマレウス・ドラコニアのみ。玉座を模した椅子に座り、何かを考え込むマレウスに何か感じるものがあるのか、他の生徒たちは談話室の中を一瞥しては機嫌を損ねないようにそっと自室へと足を向ける。

「どうしたマレウス、そんな顔をして。何かあったのか?」
「……」

不意に響いた声に、マレウスはそちらに視線を向ける。其処に立っていたのは目付役として共に学園に来ているリリア・ヴァンジュール。ディアソムニアの寮服に身を包み、カツカツとヒールの音を立てて近付いてきたリリアはマレウスの顔を覗き込む。
それがまるで幼子のような扱いで少しだけ機嫌を損ねてしまう。窓の外で雷雲が音を立てるのを聞いて、リリアが困ったように苦笑いを浮かべた。

「僕は……僕は、おかしい顔をしていたのか?」
「いいや。だが儂はお主が卵の頃から見ておるからの、隠し事など無意味だぞ」

ほれ、気にせず言ってごらん。

血のように鮮やかな赤の瞳が優しくマレウスを見つめる。たっぷりの親愛が込められたそれを不思議と嫌だとは思わなかった。
言うか言うまいか、マレウスにしては珍しく少しだけ迷って、──どうせ気付かれてしまうのなら、とそれを口にすることにした。

「クリスのことを考えていたんだ」
「クリス……。おお、あの人魚の子か!」
頷く。
「何かあったのか?」
「……あれは僕と友人になりたいと言っていた、この僕とだ。その理由を考えていた」

マレウスよりも小さな体躯で、マレウスのことを恐れず見上げ、そして手を差し出してきたまだ若い人魚の子。
空よりも深い青色の瞳はキラキラと輝いていて、翳りなど一つもないそれに少しだけたじろいでしまったのはここだけの話だ。

自分と友人になることの、その意味を理解しているのだろうか。いずれ闇の眷属たちの王となるマレウスに、友人になろうなどと下心があるのかと思いここ数日見ていたけれどそんな様子は一切ない。寧ろ、茨の谷にいる従者たちのように純粋に慕ってくれる。
それが酷く、心地よい。

だが何故突然友人になろうと言い出したのか、その理由だけはさっぱり判らない。クリスは自分に入学式の際に助けられたから、と言っていたけれどそれが友人になりたいと思うような理由になるのだろうか。
今までまともに友人という存在を作ることのなかったマレウスにとって、それは純粋な疑問だった。

「ふうむ」

マレウスがぽつり、ぽつりと語るそれらを聞いていたリリアが顎に手を当て考え込む。マレウスに友人が出来たと聞いた時は自分のことのように喜んでくれたが、何か思うことでもあるのか。

「よし!この儂が」
「余計なことはするなよ、リリア」

玩具を見つけた子供のように無邪気に笑うリリアに釘を刺す。余計なことをされて、友人を失いたくはない。
マレウスが先手を打ったことが不満なのか、リリアは唇を尖らすがそれからそっと目を逸らして考えるのは矢張りクリスのこと。
マレウス、と。どこか弾んだ声で、嬉しそうに笑いながらマレウスに駆け寄ってくる姿を思い出すと何だか胸がざわつく。この感情は、一体何だろう。

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