夜が起こす


ディアソムニア寮、自室。窓際に腰掛けて、マレウスはぼんやりと考える。

友人であるクリスはよく笑う。
口を開けて豪快に笑う姿はその可愛らしい顔立ちから想像出来ないが、なんとなく「好ましいな」とマレウスは思っていた。

だが時折、触れると壊れてしまいそうな、儚い笑い方をすることを知っている。

普段が真昼の太陽ならば、その時の笑みは柔らかな朝日だと例えるべきか。どうにもそれがマレウスの脳裏に焼き付いて離れない。

どうしてそんな笑みを浮かべるのか。
その笑みを向ける先は、一体誰なのか。
それを考えると臓腑が煮えくり返ってしまいそうな程の炎を抱くのは、何故だろうか。

自分の機嫌に呼応するように落ちた雷光を窓越しに見つめ、思い出すのはつい先日の飛行術の授業。
至近距離で見た、柔らかな光を湛えた海をもう一度見たいと最近のマレウスはよく考えている。







「マレウスー!」

放課後。ガーゴイル研究会の活動の為、校内を散策しているとマレウスの名を呼ぶ声が聞こえてきた。あんな風に気兼ねなく名を呼ぶ者は校内にはリリアとクリスしかいない。

足を止め、振り返ったマレウスに駆け寄ってくるのは予想通りクリスだった。

「こんなところで何してるんだ?研究会の活動か?」
「ああ、そうだ。……お前も部活中か」
「おう!走り込み中だ!」

元気よく頷いたクリスは運動着に身を包み、いつも横で纏めている髪をポニーテールにしている。
クリスは陸上部に所属している。飛行術は苦手だが、体を動かすことは好きらしい。

「二本足で走るのは疲れるけど、凄い気持ちいいんだ。このまま続けてたら筋肉とかつくかな!?」
「それは……どうだろうな。難しいんじゃないか?」
「そうだなって言えよォ!」

むき、と細い上腕二頭筋を見せてきたクリスに率直な感想を伝えると頬を膨らませむくれてしまった。

様々な人間や種族の生徒が在籍しているナイトレイブンカレッジの中でもクリスは小さい部類に入る。本人はそんなことはない、とは言っているが身長順で並ぶ際は一番前にいることがその証左だろう。

むくれているクリスをじいっと見下ろす。背の高いマレウスからではその旋毛しか見えない。

それが──あの海のような瞳が見えないことがなんだか妙に嫌になって、マレウスは無言でその小さな体躯を抱き上げていた。

「ひょわぁ!!な、何するんだよぉ!」
「やはり小さいな。それに軽い。お前はもっと食事を摂るべきだ」
「食べてるし!人魚の姿に戻ったら俺の方がおっきいんだからな!……多分」
「それでも僕の方が大きいだろうな。想像が容易い」
「なんだと……!」

抱き上げられたままのクリスが顔を真っ赤にして暴れるが、その程度ではマレウスの手から逃げることは不可能である。そよ風のようなものだ。

しばらくそうしていたが、疲れたのかそれとも諦めたのかため息をひとつついて、クリスは体から力を抜いた。

「なんだ、諦めたのか?」
「マレウス、そういうのって余計な一言って言うんだぞ……」
「ふはは、そう怒るな。少しからかっただけだろう」

くるくると変わる表情に思わず笑みが零れる。見ていて飽きない、とはこのことを言うのだろう。
それを見つめているとなんだか腹の奥から良くわからない感情が湧き上がってきて、マレウスは感情のままクリスの柔らかな唇にキスをしていた。

青い瞳が驚いたように見開かれて、「マレウス……?」とか細い声で名前が紡がれる。

ああ、お前はそんな顔も出来たのか。
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