それはよく晴れた日のことだった。いい天気だ、とサボりがてら横浜の街を歩く太宰の元に一人の少女が現れた。

「あの」
「……君は」

歪な笑みを浮かべながら目の前に立つ少女に太宰は目を眇める。帝丹高校の制服を身に纏っている少女は、太宰と一緒にいた千尋を睨み付けていた少女だ。わざわざ横浜に来てまで何の用だろうか。──禄でもないのは十二分に判っているが。
太宰と目が合った少女はにこりと笑った。

「独りって寂しくありませんか」

にこり、と笑ったまま一歩太宰に近づいてくる少女。貼り付けたような笑みと、欲に塗れている瞳が気に入らない。
黙ったままの太宰に何を思ったのか、少女はそのまま太宰に近づく。手を伸ばせば触れてしまいそうな距離で足を止めた。

「私なら貴方の孤独を理解できる」
「不思議なことを云うね。まるで私のことを知っているような口ぶりだ」
「知っていますよ、貴方のことなら何でも」

にこにこと笑いながら口にしたその言葉が普通であるならば気味悪がられるようなものであると少女は理解しているのだろうか。否、恐らくしていない。あの表情は、嘗てマフィアだった頃に散々見た。己が間違っていないという正義と、選ばれない訳が無いと思っている顔だ。

太宰は汚物を見たかのように顔を顰め、そのままの感情を吐露した。

「生憎と君のような得体の知れない人間と仲良くする心算なんて毛頭無くてね。帰ってくれるかい」
「なっ……!!」
「予想外、という顔をされても困るのだけど。私に君は必要ないと云ってるんだ、消えてくれ給え」
「……失礼します!」

太宰をギ、と睨んでから足音五月蠅く少女は立ち去っていく。

ストーカーか何かの類だろうか。否、然しそういう風には見えない。少女に抱いた違和感をどう言葉にするべきか、と思案している太宰の元に様子を見ていたらしい中也が近づいてきた。

「何だありゃあ」
「さて、ね。私にも覚えがなくて困っているところなのだよ。というか見ていたんなら助けてくれたっていいじゃないか!」
「手前が散々遊んで捨てた女かと思ったんだよ!自業自得だボケ!!」
「はァ!?あれくらいのお嬢さんに手は出さないし!蛞蝓の頭じゃ法律も判んないの?」
「千尋に手ェ出してンだろ手前はよォ!!」


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

「…なんてことがあってね、君と同じ制服を着てたから気を付けるんだよ」
「……ん」

こくり、と動いた頭をそっと撫でる。ピロートークには些か不似合いな話題が、千尋の身に万が一があってはいけない。そう思って伝えたのだが、千尋は既に微睡んでいるようでちゃんと伝わっているかが心配だ。

白いシーツの下の体を引き寄せる。肌と肌が触れ合って少し高い体温が伝わってくる。
千尋の意識が半ば飛んでいるのをいいことに、太宰はその肌の上に鬱血痕を散らしていく。ちゅ、ちゅ、と音を立てて花を咲かせると白い肌にそれはよく映えた。

「……千尋。もう一回、どう?」
「ん…も、むり……」
「大丈夫。君は何もしなくていい、ただ私に身を委ねてくれていたらそれでいいから」
「…………、」

甘く蕩けるように耳元で囁くと、千尋はゆっくりと頷いた。
──孤独を理解してもらおうなどとは思わない。理解してもらいたいとも思っていない。
ただ、その孤独を埋めてくれればそれでいいのだ。
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