帝丹高校の制服に身を包み、教卓の前に立ち視線を集める。その視線は悪いものではなく、好意的なものばかり。ぐるりと教室を見渡せば幾人かが熱の籠った瞳で此方を見ていることに気付き、うっそりと笑う。
どんな風に振る舞えば愛されるだろうか。演じることは得意だ。今までそうやって生きてきたのだから。とりあえず今日は初日ということも考えて、明るく振る舞ってみよう。そう考えながら教室をぐるりと見渡し笑顔を浮かべる。

「皆本藍子です!よろしくお願いしまーす!」

朗らかに笑って自己紹介をすれば、途端に沸き立つクラスメイトたち。好意的な挨拶ににこやかに返しながら、その歓声に悦に浸る。さて、この中に私を盲目的に愛してくれる人間はいるだろうか。もっと愛されるための駒となるような人が。

些か非人道的なことを考えながら教師に指示された席へと移動する。その間も絶えず視線が向けられ、いい気分だ。だが──一人、此方を訝し気に見ている女子生徒に気が付いた。そこそこ顔が整っているので、踏み台くらいには使えるだろう。然し、歓迎しているとは思えない目に少しばかり腹が立つ。

まぁ、いい。
あの胡散臭い「カミサマ」とやらにも「特典が効きにくい人間もいる」と聞いている。彼女はその類の人間なのだろう。ならば積極的に関わらなければいい。愛してくれない人間などいらないのだから。

「よろしくね」
「う、うん……」

自分の席にと用意されていた椅子に腰掛け、隣の席の男子生徒に笑いかける。すると頬を赤らめるものだから、藍子は満足そうに頷いた。矢張り「愛されること」を特典として願っていて良かった。

誰もが自分に好意的な目を向けていることに踊り出してしまいたい気分だ。──ここでなら、誰かに怯えながら生きていく必要はない。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



おかしな子が来たと思った。

編入生がいるのは園子から聞いており、仲良くなれたらと思っていたが実際に見てみるとどうもそんな気分にはなれない。

編入生──皆本藍子が教室に入った途端空気が変わった。熱に浮かされているような、そんな空気だ。異質な雰囲気に誰も気づいていないのか、気付けないのか。クラスの中で訝し気に皆本を見ていたのは千尋だけだった。

皆本を見ていると何だか不思議な感覚が湧き上がる。外と中が合っていないような、此処にはいてはいけないと思うような。然しそれはあくまで千尋自身が抱いたものであり、周囲はそうとは思っていないようだ。

休憩時間、我先にと皆本に群がり質問を投げかけている男子生徒たち。女子生徒たちも遠巻きに見ては、近づこうとしている。

「凄い人気ねぇ!」
「皆本さん、すごく可愛いから仕方ないよ」
「ねー!何か秘訣でもあるのかしら!」

園子と蘭が遠巻きに見ながら皆本に対しそう評価するのを聞いて千尋は首を傾げた。
失礼な話だが皆本はそこまで可愛いだろうか。中の中、どこにでもいるような平凡な顔立ちである。美醜については人それぞれの価値観があるし、二人がそう思うのならばきっとそうなのだろう。然し千尋の目にはそうは映らない。

「千尋ちゃんはどう思う?」
「……、」

蘭にそう問われ、千尋はほんの少しだけ口籠った。当たり障りのないように「そうだね」と返事をすると、二人はまたいつものように可愛らしく言葉を交わし、笑い合っている。

ふと視線を感じた。思わず其方を見れば、人の囲いの隙間から皆本が千尋のことをじいっと見ている。何だかその目が不穏な光を宿していて、──ああ、その目には覚えがあった。

嫉妬、だ。
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