愛されたいの。息が出来ない程重く、溺れてしまいそうな程深く。
そうすれば私は、それだけの価値があるのだと自分に誇りを持つことが出来る。いらない人間ではないと肯定することが出来るのだ。
愛されたい、愛されたい、愛されたい。気が狂ってしまいそうな程の愛を私に、ください。

「うんうん、中々に強欲だねぇ。気に入った!君の望みを叶えてあげよう」
「……だれ、」

「かみさまさ」

薄汚れた少女に、一人の男が笑いかけた。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

後ろから太宰に抱き締められながら千尋は課題を片付ける。抱き締められるのはいつものことだが、千尋の肩口に顔を埋めている太宰はいっそ不気味だと思ってしまえる程に喋らない。
如何したのだろうか、何かあったのだろうか。聞きたいとは思いながらも聞けないのは、踏み込んでもいい部分なのかと思ってしまうから。

「……如何したの」

結局千尋はそう口にした。
ペンを置いて何があったのかと尋ねてみるが、腰に回されている腕の力が強くなるだけで太宰は何も云わない。

却説如何したものか。ずっとこのままでいる訳にはいかないが、此処で第三者に助けを求めても意味がないことを千尋は知っているので、千尋は体から力を抜いて太宰に凭れ掛かった。
課題も大方終わっているし少しくらい休憩したって構わない。踏み込むと決めたのだから、太宰の気が済むまで付き合おう。

そう思った時だった。

「厭な、夢を見たんだ」

太宰がぽつりと呟いた。消えてしまいそうな声色に、横へ目を向けると酷い顔がそこにあった。
何かを恐れているような瞳に、千尋は慰めを吐こうとした口を噤む。ああ、これは。

「きみをうしないたくない」

絞り出すような声と共に強く抱き締められる。太宰が此処まで憔悴するのも珍しい。そんなにも自分が惨い死に方をするような夢を見たのだろうか。千尋は慰めるように、腹に回った手に触れた。

所詮夢なのだから気にするなと口には出来ないのは千尋が太宰を置いて逝ったからだ。否、太宰だけではない。中也も尾崎も芥川も、自分を愛してくれる存在凡てを置いて逝った千尋には、その不安を大袈裟だと笑い飛ばす資格はない。

「死ぬなら、私の目の前で死んで」
「、うん。約束」

だから代わりに約束を交わすのだ。それがどんなに歪でも、後ろ指をさされるようなものでも、千尋は凡てを受け入れる。


◇◇◇◇◇◇◇◇

目が覚めた。体の節々が痛いけれど、いつもの暴力とは微々たるものだ。痛む体を引き摺って、清々しい気持ちで閉め切られていたカーテンを勢いよく開ける。
眼下に広がるのは見慣れない街。あの胡散臭い存在の云うことは本当だったのだ、と少女は口角を上げた。
──歪な笑みが硝子に映るが、少女の目には入っていない。

「……うふふ!」

此処で漸く愛で満たされるのだと思うと、胸が高鳴った。
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