違和感に気付いたのは、一緒にいてくれた友人たちが傍から消えてしまった時。
口数も少なく、表情も乏しい千尋のことを友達だと言ってくれた友人たちは気付けば皆本藍子の傍で見るようになっていた。

「藍子ちゃん!」

教室で、ニコニコと笑いながら藍子の名前を呼ぶ蘭の姿をそうっと眺める。笑う彼女の姿は何も変わらず優しさに満ちている、がその姿に首を傾げた。
蘭の笑みはあんなにも作り物めいたものだっただろうか。

「……気の所為、かな」

そっと目を逸らし教室から出る千尋の姿を皆本が愉快そうに笑って見ていた。



何となく、疎外感がある。

嫌われている訳ではないだろう。声を掛ければ言葉を返してくれるし、暴力を振るわれる訳でもない。けれども此処にいてはいけないような気分になってしまう。
何故だろう。世界から、置き去りにされてしまったような。

なんて口に出せば、太宰が嬉々として囲ってきそうなので口にはしないが。
つらつらと思考を並べながら米花の街を歩いていると、見覚えのある金色の髪が目に入った。

「……国木田さん?」
「……む。一野辺か」

つい声をかければ、国木田は開いていた手帳を閉じた。
仕事の邪魔をしてしまったか、と申し訳なく思っていると国木田は何だか気まずそうな顔をしている。
それもそうだろう。国木田と千尋の接点など殆どない。

「その……元気か」
「え、あ、……はい」

千尋にとって国木田は太宰の現相棒、という印象しかなく。国木田にとって千尋も似たような印象だろう。
気まずい空気を打ち破る話題など口下手な千尋が持っている訳もなく、そのまま二人の間に沈黙が広がる。

「そうだ、」

思い出したかのように国木田が口を開く。

「最近俺たちを探っている者がいるようだ。……一野辺も気をつけろよ」
「はい、」

ふと眇られる瞳には優しい色が宿っているのを見て、千尋は薄く口角を上げる。

例えこの世界に疎外されたって何だ。こうして自分のことを愛してくれて、心配してくれる人間がいるのならそれでいいじゃないか。
途端に世界が優しい色に包まれているように見えて、千尋は目を細めた。



「ねぇ、」

移動教室の為廊下を一人で歩いている千尋に声がかかった。声の主に目をやれば、皆本がにやにやと厭らしい笑みを浮かべて立っている。

「可哀想に。あんたもう一人ぼっちね」

楽しげに言う皆本。わざわざそれを言いに来たらしい。暇なのだろうかと些か失礼なことを思いながら、千尋はことりと首を傾げた。
そして歪な笑みを浮かべる皆本に、「一人じゃないわ」と一言。

「……なんですって?」
「だって治くんたちが、いるもの」

当たり前のことを、幸せそうに笑って言葉にする。

蘭たちにどんな心境の変化があったのか千尋には判らない。
もしかすると千尋のことが嫌いになってしまったのかもしれない。何か事情があって距離を取っているのかもしれない。

このまま友人に戻ることが出来なかったとしても、千尋には太宰だけではなく中也や芥川、森や尾崎だっている。未だに距離を測りかねているけれど国木田や敦といった武装探偵社の面々もいる。
この世界に、千尋は一人ではないのだ。

そんな千尋の余裕を感じ取ったのか、皆本の表情が般若の如く形相へと変わっていく。

「あんたなんか…あんたなんか、地獄に落ちちゃえばいいんだわ!!」

何処からかカッターナイフを取り出した皆本は、びりびりと己のワイシャツを裂いていく。
皆本が何をしたいのか判らず見守っていると、ある程度ボロボロになったワイシャツを見て皆本はにんまりと笑みを浮かべそのまま立ち去っていく。

何だか面倒なことが起きそうだ、と千尋はそっと息を吐いた。
prevnext
×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -