「僕、現世に行ってみたーい!」
「俺も!大将の住んでる街行ってみたい!」

それは、誉を三十個獲得した者へと贈られるご褒美で云い出されたことだった。
同じ出陣でそれぞれ誉を取り、見事三十個目の誉を獲得した乱藤四郎と信濃藤四郎のおねだりは「現世に行きたい」だった。

刀剣男士を連れて行っても大丈夫なのか聞いてみると、色々と制約はあるものの可能らしい。ということで。ヨコハマに刀剣男士がやって来た。

「……で、連れて来たと」
「偶にはいいかなァって」

頭が痛い。何も判っていない様子の昔馴染みに中也は頭を抱えた。
中也の様子に千尋は不思議そうに首を傾げているが、理由までを考える気はないようで直ぐにいつも通りの様子を見せる。そんな千尋にまとわりつくように立っている二人の子供は警戒するように太宰を見ていた。

つい先日、「千尋に会いたい!千尋が足りない!!」なんて叫び出した太宰は千尋がいる件の場所へ乗り込んだのだ。突然乱入した太宰を警戒するのは当然だろうが、その目が中也にも向けられていることが判らない。

幼い子供の姿をしているが隙が全く無いことに中也も知らず知らずのうちに警戒をしてしまう。何と云うべきか、放っておいたら千尋が遠くに行ってしまいそうな気がする。

「刀剣男士、ねぇ」

こんなにも幼い姿をしているというのに、一度戦闘となると凛々しく雄々しく戦うのだと誇らしげに云っていた千尋を思い出し、中也はそっと溜息を吐いた。審神者とやらになる前はあんなにも怖い怖いと云っていたのに、一度慣れるとその恐怖は薄れたらしい。

いいことだ、と思う反面慣れ過ぎて消えてしまうのではと思ってしまうこともある。嘗てのようにその手を取り零すようなことはしたくない。

何だかしみったれたことを考えてしまった、と中也は頭を振って考えを振り払う。と、太宰が千尋たちの傍に近づいていくのが見えた。

「ねぇねぇ。其処は私の場所なのだけど」

にっこりと、中也から腹が立つ笑みを浮かべた太宰は千尋の腕にしがみついている刀剣男士たちとやらを引き剥がそうとするが、人ならざる者と少々非力な太宰とでは勝負にならない。

千尋が痛みを感じないようにと配慮はしているのだろうが、それでも赤髪の少年はぎゅうっと抱き着き離れようとしない。

「えー?大将の懐は俺のだよっ」
「し、信濃……」
「……」
「……」

困ったような声で少年の名らしきものを呼ぶ千尋。千尋が見えていない位置で、太宰の顔から表情が抜け落ちるのを中也はばっちり目撃した。ああなると面倒くさいのはよく知っている。

ばちりと一人と一振りの間で火花が散っているのを他所に橙色の髪をした──少女、だろうか。男士というからには男だろうが、一見すると少女にしか見えない少年が声を上げた。

「あれ?主さん、この前僕が贈った桜の髪飾りはつけてないの?」
「うん、ちょっと……」
「えーっあれ絶対似合うのに〜!その髪飾りもいいけど、あれもつけてほしかったなぁ〜!主さんには青より桃色の方が似合うよっ」

ちらり、と此方に視線を寄越しつつそう云う少年は中也は己の頬が引き攣るのが判った。

千尋が常につけている青色のピンは中也が贈ったものである。嘗ての生で初めて贈ったもの、とは矢張りデザインや色味が僅かに違うがそれでも探して似たものを贈ったのだ。

少年の言葉にそうかな、なんて千尋が答えるのを見ながら少年が勝ち誇ったように此方を見る。

──幾ら刀の付喪神とはいえ子供の姿をした者へ対して大人げないかもしれないだろう。
然し、腹が立った。文句があるのか、と少年に詰め寄りたいのを堪えながら中也もにっこりと意識して笑みを浮かべる。

「此奴には桜より牡丹だろ。薄紅色のがいいな。手前もそっちの方が好きだったよなァ」

そう云いながら千尋の髪に触れる。さらりとした、指通りのいい髪質は中也が気を遣って色んなシャンプーを使わせているが故だ。
濡れ羽色の髪は淡い桜色よりも鮮やかな紅色の牡丹の方がよく映える。口籠る千尋に「ん?」と優しく問いかけてみれば、頬を赤らめながら小さく頷いた。

「う、うん。まぁ、うん」
「……」
「……」

ばちり、と次は此方で火花が散った。

付喪神だか刀剣男士だか何か知らないが千尋は此方側の人間である。絶対に渡さない、という確固たる意志をもって腕を引いて傍まで引き寄せる。

柔らかな頬に口付けを一つ落とせば、刀剣男士たちからだけではなく太宰からも罵詈雑言が飛んだが知ったことではない。

幕が切って落とされた

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