「毛玉さま」


マネージャー太宰×新人アイドル君愛主







最近話題のアイドルがいる。

名前は一野辺千尋。整った容姿と控えめな性格で一躍有名になった少女だ。
いつもニコニコ笑っている訳ではないがふとした瞬間に見せる笑みが大変可愛らしいと評判の──太宰の愛しい女の子である。

「お疲れ様、今日も可愛かったよ」
「……有り難うございます」

収録を終えた千尋に素直な感想を伝えると、少し間をおいてはにかんだ姿に太宰は内心嘆息する。日々可愛らしいと伝えているのに千尋自身其れが世辞だと思い込んでいる節があるのだ。

世辞なんかではないのに。
太宰は心の底から彼女が一等可愛らしいと思っている。

原因は恐らくあれだ。彼女の仕事が終わるのを待っている時に商売敵ともいえる事務所のアイドルに話しかけられ、愛想よく接していた所為だろう。
千尋の踏み台に利用してやろうと愛想よくしていただけなのに、真逆その彼女に誤解されるとは予想外だった。

「千尋。この後のことなんだけど…」

マネージャーらしく手帳を開きながらこの後の打ち合わせをする。
今の千尋には記憶がない。上司であった森のことも、恩人である尾崎のことも、ヒーローだなんて云っていた中也のことも、恋人役だった太宰のことも凡て忘れてしまっている。

本当ならばそっとしておくべきだったのだろう。
事実千尋を連れて森が社長を務める芸能事務所に行くと、影で尾崎にそう叱責された。然し。あんなにも優しい顔をしていた彼女が酷く暗い顔をしていたのを見てしまったらもう我慢出来なかった。

「千尋。悪ィ、この後空いてるか?」
「この、後は…」

突然湧いて出てきた中也の問いに千尋が助けを求めるように此方を見てきた。
同じ所属事務所の先輩アイドルともいえる中也にはまだ慣れていないようで、こうして話しかけられる度に縋ってくる千尋を見ると勝ったななんて思ってしまうのだ。

「残念だけどこの後打ち合わせがあってね。君の為だけに時間なんて取れないかな」
「一言多いンだよ手前はよォ!……終わったら連絡してくれるか?」
「えぇっと…は、はい」

千尋が頷いたことに中也がほっとした顔を見せる。中也自身千尋と嘗てのような関係になりたいようだが年齢差もあって中々上手くいっていないようだ。そう考えると今の環境で千尋が一番懐いているのは太宰ということになる。

──それが酷く嬉しい。

「それじゃあ行こうか」
「は、はい」

柔らかな手を握って足を動かす。向かう先は次の現場でも事務所が用意している寮でもない。太宰の自宅だ。



「ッ、太宰、さ…恥ずかし、」
「大丈夫だから。私に任せて?」
「……」

頬を赤らめ恥ずかしがる千尋にそう声を掛ける。
太宰の眼前にいる千尋は服を着崩し、女の子らしい下着を晒していた。弱々しい抵抗をするが太宰が優しく囁けば抵抗の力は更に弱々しいものになる。

白いシーツが敷かれた寝台の上で組み敷きながら音を立てて肌に口付けると、ふるりと体を震わせる千尋は本当に可愛らしい。白い肌に痕をつけてしまいたいと思いながらもそうしないのは、今の千尋は「アイドル」という立場にいるからだ。若しも彼女がただの少女であったら今すぐに孕ませていたのに。

「……随分と薄くなったね」
「は、い。よかった、です」

太宰の言葉に弱々しく、けれども少しばかり嬉しそうに頷く千尋。普段服で隠れている肌には痛々しい傷跡がつけられている。
此れらは凡て今の彼女の両親がつけたものだ。千尋は所詮虐待というものを受けていた。

昔よりも遥かに気弱なのも、人と触れ合うのを苦手としているのも凡てその両親が原因だ。今は森が話をつけたこともあり接触してきていないが、次に千尋と近付こうとしたのなら。

「君は私が絶対に守るよ。だから──千尋も私から離れないでね」
「……はい」

嬉しそうに、安堵の笑みを浮かべるその唇にそっと唇を重ねた。
────────────
毛玉さま
今回はリクエストに参加していただき有難うございます!!
とても楽しく書かせていただきました……!!
この後は記憶を取り戻しても取り戻さなくてもあらゆる可能性がありますね…
暑い日々が続いております、体調には気を付けてお過ごしくださいm(*_ _)m
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