笑え


密やかに、何でもないように、笑え。









園子に招待されたパーティーが怪盗キッドを捕まえるものへとなったのは、偏に鈴木財閥相談役・鈴木次郎吉が理由である。

キッドを捕まえ新聞の一面を飾るのだと意気込んでいる次郎吉のキッドへの執念は中々に凄まじいもので、今回も海外の友人の伝手を使いビックジュエルを手に入れたという。

しかしそのビックジュエル──「天使の涙」と呼ばれるそれをコナンは未だ見ていない。

理由は簡単。今回それを守るのは最先端のセキュリティではなく、横浜にあるPDAという何でも屋であるからだ。

あまり耳にしたことのない社名に不信感を抱き調べてみたが、どうやら横浜の住民には絶大な人気を誇り警察関係者にも信頼されているという。

PDAの社長が次郎吉と長い付き合いらしいので、その縁で護衛に選ばれたのかもしれないがそうだというのなら千尋の胸元にビックジュエルがあるのがとても気になる。

彼女はまだ高校生だ。
彼女の恋人である太宰がPDAの社員なのかもしれないが、だからといって千尋にも手伝わせるものなのだろうか。

鈴木財閥が所有するビルの一つの中に設置された煌びやかな会場の中で、次郎吉と和やかに会話をしている千尋たちの元へ蘭たちと行きながらコナンはそんなことを考えていた。

「千尋ちゃん!」
「…園子ちゃん?」
「来るなら来るって言ってくれればよかったのに」
「ふふ、ごめんね」

少不貞腐れたように言う園子に千尋がそっと苦笑いを零す。
確か、彼女は「用が出来たので行けない」と言っていた筈だ。もしや参加できないと言っていたのはこれが理由なのかもしれない。

赤いドレスを身に纏い、胸元でビックジュエルを輝かせる千尋の姿は化粧や髪形の所為だろうか、普段より大人びているように見える。

「とても、綺麗です」
「あ、ありがとうございます……」
「しかし赤より青の方が…千尋さんに似合うと思うんですが…」
「千尋は何色だって似合うよ」
「……そうですね、失礼しました」

ニコニコと笑い合っている安室と太宰の間で火花がばちりと弾けたような気がしてコナンは引き攣った笑みを浮かべる。

折角のパーティーだ、仲良くしてほしいと思うが互いに敵視しているので実質不可能だろう。二人に挟まれている千尋も苦笑いだ。

「こんにちは。足の調子はどうですか?」
「え、あ」
「沖矢さん?千尋お姉さんと知り合いなの?」
「ええ、先日少し」

しれっとした顔で会話に混ざってきた沖矢に疑問をぶつけるが、はぐらかされてしまった。もっと追及したいが沖矢が混ざってきたことに気が付いた安室の形相が酷いことになっている。

幸いというべきか安室の般若の形相は太宰とコナンしか見ていない。

そのまま親しげに千尋と言葉を交わしている沖矢の元まで近づくと、安室は勢いよく沖矢の肩を掴んだ。衝撃で沖矢の持っていたグラスが揺れるが幸いなことに中身は零れていない。

「少し僕とお話しませんか?沖矢さん」
「おや…。何かありましたか?」
「いえ少し、じっっっっくりとお話したいことがありまして」
「構いませんが…」
「ではあちらで」

先程までの般若のような形相ではなく、周囲の女性が思わず見惚れているような笑みを浮かべ安室は沖矢を会場の端へと誘導する。

何を話すかは知らないが、千尋に対しての恋慕を隠そうとしていない安室だ。何処で千尋と接触したのか沖矢から聞き出すつもりだろう。
沖矢も沖矢で、安室の前で彼女に接触すれば安室が激昂すると知っているのにそんなことをするのだから性格が悪い。

大人げない大人二人を呆れたように見つめるコナンに、可哀想なものを見るような目をしながら太宰が口を開いた。

「君も大変だね」
「ははは…」

二人の因縁がどこからきているものなのかコナンは知らないが、今日の目的はビックジュエルを守ることとキッドを捕まえることである。

二人とも一般人よりも遥かに能力が高いのだから是非とも協力してほしいところだ。

「鈴木相談役、我々はこれで。また会場を回っていますので、何かありましたら」
「うむ、よろしく頼んだぞ」

次郎吉にぺこりと頭を下げ、千尋と太宰が去ろうとしている。去る、といってもこの会場内にはいるのだがコナンはずっと聞きたいことがあった。

会場内で千尋を見かけてからずっと気になっていることだ。ねぇ、と呼び止めれば不思議そうな顔をした千尋が足を止めコナンを見ている。

「千尋お姉さん、足、治ったの?」
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