選択


「君に選ばせてあげよう。これで最後の自由にするか、それとも束の間の自由をまだ楽しむか」

どちらを選んでも、最後は私から離れられない未来なのだけどね。






煌びやかなパーティー会場に合わせて着飾った人々が和やかに談笑しているのを冷ややかな目で見ながら太宰は千尋の姿を探していた。

鈴木財閥の令嬢に招待されたパーティーに行きたいと云っていた千尋は、あろうことか安室というあの男に助力を乞うていた。
其れを目撃した時衝動のまま彼女を拉致監禁しなかったのは、見張るように中也が傍にいたからだろう。

──見知らぬ誰かとぶつかり義足を壊してしまった千尋をマンションまで連れて帰って、太宰が千尋に提案した選択肢は二つ。

パーティーに参加して高校を辞めるか、参加せずに残り一年と少しの学生生活を満喫するか。

我儘かよ、と中也がぼやいていたけれどそんなことはないと反論しつつ千尋の答えを待っていれば彼女が出した答えは「行かない」だった。

そんなに離れていたいのかと激昂しそうになったが「治くんがいないときっと楽しくないから」と云われてしまえば何も云えなくなる。これを計算ではなく素でしているのだから恐ろしいことだ。

──太宰の杞憂も策略も、千尋の選択も何もかも無駄になってしまったのだけど。

「手前、糞鯖野郎。何処で油売ってンだ!」
「厭だなァ、中也ってば。そんな汚い言葉を使って。此処はパーティー会場なのだから淑やかにしないと」
「男に何気色悪ィこと云ってンだ、殺すぞ」

待機場所に戻れば殺気立った中也が睨んできたのでそれを飄々とした態度で躱しつつ千尋を探す。居た。

先程まで見かけなかったので何処かの男に誑かされているのではと危惧していたのだ。赤いドレスに身を包んだ千尋は今日も一等美しい。
その胸元で輝く宝石の首飾り(ネックレス)など霞んでしまう程に。

「何処に行ってたんだい?随分と君を探したよ」
「あ…お手洗いに」
「そう。でもきちんと一言声をかけてね」

君がまた私を置いていってしまったのではと心配したんだ。と付け加えれば、千尋は曖昧に笑った。

今日、千尋を含めPDA社の者がこの会場にいるのは、偏に鈴木財閥から依頼があったからだ。鈴木財閥相談役、鈴木次郎吉と云えば今世間を賑わしている怪盗1412号──通称、キッドと呼ばれる怪盗に幾度も挑戦状を叩きつけていると有名だ。

今回も手に入れたビックジュエルを餌にして捕まえると息巻いているようで、その助っ人としてPDA社が指名された。
聞けば社長である福沢と繋がりがあるらしく異能力についてもある程度の理解があるらしい。といわれてもそう大っぴらには使えない代物ではあるが。

そんな場に何故千尋がいるのか、此れは森の提案である。
鈴木相談役はキッドを捕まえる為に毎度最新のセキュリティシステムを利用しているらしいのだが、どれもキッドに看破されている。

そこで森がこう提案したのだ、「うちの社員の身につけさせるのはどうでしょうか」と。

PDAの社員は腕が立つことで有名だ。鈴木相談役は森の提案を快諾し──何故かその役目が千尋に回ってきた。

「君に近づく男は私以外皆敵だからね、誰かが近づいてきたら『アレ』を使って追い払うんだよ」
「う、うん」

困惑した様子の千尋に云う。何も千尋でなくともいいではないか、と森に進言したが何処から千尋がパーティーに出たがっていることを聞きつけたのか「一石二鳥じゃないか」と返され何も云えなくなってしまった。

この上なく腹が立つがこの仕事が終わったら有給を取ってもいいと言質を取ったので我慢するしかない。

「終わったら『楽しい』ことを沢山しようね」
「う、うん…」

笑みを浮かべながら云うと千尋はそっと目を逸らした。僅かに露出している肩をそっと抱いた。

与謝野の手によって美しく纏められている髪の隙間から『何の痕もない』白い首筋が見える。

「太宰さん、千尋さん。そろそろ」
「ああ、今行くよ。じゃあ、行こうか」
「……うん」

いつもと違う手をわざとらしく握った。
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