独占


あの子を見ていいのも私だけ。あの子を好いていいのも私だけ。
あの子に触れていいのも、あの子の笑顔を見るのも、あの子に好かれていいのも、全部全部、私だけだ。





太宰と名乗った青年を安室は注意深く観察する。服の隙間から見える肌には包帯が巻かれているが、太宰本人の動きにぎこちなさはない。
傷跡を隠す為に巻いているのだろうか、と予測をつけつつ人好きするような笑みを浮かべた。

「依頼ですか、判りました!ただ今はポアロの勤務中なので、終わるまで待っていただきたいんですが…」
「構わないよ。是非君にお願いしたいことだからね」
「、そうですか」

ニコニコと笑みを崩さない太宰を安室は警戒する。口角が上がっていても、太宰の目は笑っていない。
その瞳に宿っている感情が一体何なのか安室には判らないが、いい感情ではないことは確かだ。

組織関連か、と目星をつけながら仕事を片付けるべくカウンターの向こう側に回ると、梓がこそっと声をかけてきた。

「安室さん。今お客さんは蘭ちゃんたちしかいないし、抜けてもらって大丈夫ですよ?」
「本当ですか?有り難うございます。あ、ならついでに休憩も取りますね」

はい、と笑みを浮かべる梓に安室もつられて笑う。
太宰の思惑が何だろうと此処は守らなければと鋭い目つきでコナンと話す太宰の姿を見た。





安室がカウンターの向こう側に行ったのと同時にコナンは太宰に近づいた。
安室の正体を知っているコナンからしてみると、上の階に毛利小五郎の事務所があるのにわざわざ安室に依頼する訳が判らないのだ。

安室から声をかけたのなら兎も角、先ほどの様子を見るにそういう訳でもないのだろう。安室が梓と会話をしている今がチャンスだといわんばかりにコナンは無邪気な子供を装って太宰と名乗った青年に近づいた。

「ねーねーお兄さん。お兄さんはどうして安室さんに依頼するの?上の階に行けば小五郎のおじさんがいるのに」
「コナンくん!邪魔しちゃ駄目でしょ」
「だって気になるんだもん!小五郎のおじさん、凄い探偵なのに!」

邪魔をしないようにコナンの手を引いた蘭の言葉に反論する。小五郎に依頼してくれれば自分も関わりやすいのだ。それに安室が太宰のことを警戒している様子なのでコナンも警戒しなければ。

じっと見ていると太宰は少しばかり困ったように笑いながら口を開いた。

「そうだね、理由を云うならば私の依頼は彼にしか出来ないからかな」
「僕だけ、ですか?」

いつの間にか傍にやって来ていた安室が不思議そうに口を開いた。ポアロのエプロンを脱いでいる安室は太宰に一言断って正面の席に腰を下ろした。

さりげなく安室の隣にコナンも座れば横から視線を感じたが知らないふりをする。この男が一体何者なのか、どんな依頼をするのか純粋に興味があるのだ。

安室の問いに太宰はそう、と頷いた。

「私の恋人に付き纏っている不埒な輩がいるようでね、その輩についての依頼なんだ」
「……僕でないといけない理由はなんでしょうか?」

安室の疑問は尤もである。太宰の言葉から察するに不埒な輩というのはストーカーか何かだろう。
もしそうならば小五郎でも構わないだろうし、実害が出ているなら探偵より警察に相談した方がいいのではないか。

そう問うたのはコナンだが、太宰は目をコナンではなく安室に向けたまま口を開いた。

「其れが、君だからさ」

漸くコナンは太宰の目に宿る感情の色に気が付いた。

「私の可愛い恋人に付き纏う君のことを教えてくれ給えよ、──安室透くん?」

それは憎悪と嫉妬と──怒り、だった。
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