幕間


工藤邸にて。
コナンは共犯者ともいえる、沖矢昴──基、赤井秀一と情報交換をしていた。

その大部分が先日東都デパートで遭遇した芥川と千尋に呼ばれていた青年だ。彼が羽織っていた黒い外套から生物のような物体が生まれ、それが犯人の意識を奪ったなど今でも到底信じられない。

何かタネがある筈だとコナン独自で調べていたが、あの青年の経歴におかしな部分は存在しなかった。
千尋さん、と何故だか年上の青年に敬称をつけられていた千尋にそれとなく探りを入れてみたがあの時と同じようにはぐらかされるだけ。酷い時には聞こえなかったフリさえされる。

故にコナンは自分よりも情報収集力を持つ赤井に相談しに来たのだ。

「その芥川と呼ばれる青年が怪しいと?」
「怪しいっていうか…不思議っていうか…。とにかく、この写真を見てよ」

そう言い、偶然撮れた写真を赤井に見せる。それはあの青年が外套から獣を出し倒れている男を睨みつけている写真だ。
間に千尋が入っているので見えにくいかもしれないが、それでも人でも動物でもない何かがいることは確認できるだろう。

周囲が騒がしかったこと、千尋が芥川と話していたからこそ撮れた写真に沖矢の変装をしている赤井は僅かに目を見開いた。

「……なんだ、これは」
「ね?不思議でしょ?僕、間近で見てたけど今でも信じられないや」
「ふむ…。調べてみるか」
「あ、それなら一野辺千尋さんっていう人がいるんだけど」

コナンは簡単に千尋のことを話す。

一野辺千尋、工藤新一のクラスメイトで件の青年とも親しげに話していた。あの何かのことを問えば、内緒とあからさまにはぐらかされたのだ。

確実に何か知っているのだろう。そう云えば、赤井は興味深そうに言葉を漏らした。

「ホォー、それは興味深いな。俺もその少女に接触してみよう」

赤井は凄腕のFBI捜査官だ。千尋から聞き出すのも簡単なことだろう、とコナンは期待に胸を膨らませた。

あの青年の力が一体どんなものか判らないが、もし組織壊滅の協力者となってくれれば心強いものになるだろう。彼自身は難しそうな性格をしているようだが、千尋の言うことには従っていたし千尋さえ此方についてくれればと思う。

例え協力者にならなかったとしても、此方の敵ではないことさえ判ればいい。
そんな風に楽観的に考えていたコナンは後に頭を抱えることとなる。





坂口安吾には、前世と呼ばれる記憶がある。
馬鹿馬鹿しいと同僚や上司には笑い飛ばされそうなその記憶は確かに坂口の中にあり、かつて友人であり敵対者であり協力者であった彼らは現実に存在している。

己の妄言であると笑い飛ばすには少々無理があった。

前世では異能特務課に勤め異能力者たちの管理・監視をし社畜を極めていた坂口だが、今回の人生でも社畜を極めていた。

警察官となり、その有能さから公安へと配属になった坂口は潜入捜査を務める上司の上司をサポートすべく日々尽力していたのだが。現在進行形で、頭を抱えていた。

「あのな、風見…。彼女が僕のことを好きらしいんだ……」
「そうなんですか、おめでとうございます!仕事してください」

目の下に隈を作り、それでも驚異的なスピードで書類を捌いていく直属の上司とその上司の会話を聞きつつ坂口はつい其方に視線をやった。

上司の上司──降谷の云う彼女とはまさか「一野辺千尋」だろうか、と。

かつて降谷と同じく潜入捜査をしていた先輩、諸伏の命を危機一髪のところで救った少女を調べてくれと頼まれたことはある。
其れが己の友人の恋人であった時は何をしてるのだと呆れたが、まさかそんな彼女に上司が恋心を寄せているということはないだろう。恐らく、きっと、多分。

恋人『役』をしていた当時はとても冷めた関係だったが、成長した友人はその時には既に死んでいた彼女に対し並々ならぬ執着を抱いていたし、なんなら今はその時以上の執着と独占欲を見せている。

彼女自身も友人以外の男は興味ない、なんて公言する程なので万が一ということはないと信じたいがそれでも万が一があったなら。

「……胃が痛い……」
「大丈夫か?胃薬あるぞ」
「結構です…」

その先を想像してしまってつい胃を押えてしまった。取り敢えず上司には夜道には気を付けてくださいとでも云っておこうか。
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