素顔


女の素顔には触れないことよ。其処には秘密が詰まっているから。




黄色い声を上げて商品を選んでいる蘭と園子を一歩下がったところで眺めながら、コナンは千尋を探すべく視線を彷徨わせた。

千尋ちゃんに誘われたの、と蘭が嬉しそうに云うのでコナンもついてきたのだがまさか好きな人に贈るプレゼントを選ぶ為の買い物とは思いもしなかった。

先日ポアロで恋バナをしたのだと蘭が言っていたが正直彼女に好きな人がいるというのは想像出来ない。

いつも一歩引いたところにいて周囲と距離を置いている千尋。
彼女の好きな人とは一体誰だろうか。蘭と園子は安室ではないかとはしゃいでいるがコナンはそう思えない。
コナンも安室の公開告白の場に居合わせたが千尋に安室への恋慕というのは見えないのだ。

ネクタイを置いているコーナーで商品棚を眺めている千尋を発見したコナンは、蘭に一言告げてから千尋に近づく。

「ねーねー、千尋お姉さん。プレゼントする人ってそういうのつけてるの?」

コナンが近づいても反応を示さなかった千尋が見ていたのは、赤い石が埋め込まれているループタイだった。うん、と頷く千尋はそれをじっと見ている。

安室には似合うと思わないデザインなのでコナンの推理は信憑性を増していく。

「千尋お姉さん、バーボンって知ってる?」
「…確か、お酒の名前だよね?」

千尋が疑問に思いつつも答えてくれる。何故酒の名前を子供が、そんな声が聞こえてきそうだ。コナンは千尋の表情をじっと観察するが特段変わったことはない。

安室が積極的に接触しているので協力者なのでは、とも考えていたがその線もないようだ。

なんでもなーいと子供らしく声を上げれば「そう」と興味なさそうに呟いて千尋は再び棚に置いてあるループタイを眺めている。プレゼントの品はこれに決定しそうだ。

「それにするの?」
「そう、だね。これにしようかな」

ループタイを手に取り会計へ向かう千尋の姿を見送って、コナンは蘭たちの傍へと寄る。

彼女らも何か買ったようで袋を手に持っている。蘭は小五郎へのプレゼント、園子は京極へのプレゼントだろうか。

「ガキンチョ、千尋ちゃんは?」
「レジに向かってたよ!」
「ならそろそろ出てくるかしら」
「ごめんね、お待たせ」

タイミングよく千尋が店から出てきた。先程買ったであろう商品が可愛らしくラッピングされており、千尋自身嬉しそうに頬を薄らと赤らめている。

「それじゃあ早速渡しに行きましょ!」
「えっ」

渡す相手が安室だと完全に誤解している園子に千尋は困惑した声を出す。
然し本来の相手に渡すことを想像したのだろう、店から出てきた時よりも顔を赤くしている。

今まで学校以外で彼女のことを見たことがないからか、こうして無表情以外の千尋を見るというのが新鮮だ。頬を赤らめた千尋を見て蘭も目を輝かせている。

取り敢えず店の前から移動しよう、と意見が出た時だった。

「きゃああああ!!」

甲高い悲鳴が聞こえてきた。それを耳にしたコナンは反射的に其方へ向かって走り出す。
走り出したコナンに向かって千尋が手を伸ばしていたことは気付かなかった。
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