溺死


愛して愛して、息が出来ないくらい、重く。






「ふ、ぅんッ、おさ、むく、」

リビングにて。ソファーに座り千尋を膝の上に置いて、太宰はその唇を貪っていた。

時折苦しそうに彼女の手が服を掴んでくるが唇を離すことなどせず只管舌を絡ませる。吸って甘噛みをして。息も出来ない程激しく口付けをする。

「ッは、」
「千尋、」

漸くロを離した頃には千尋は息絶え絶えだった。目には涙を浮かべ荒い息をしている千尋は、体の力を抜くとそのまま太宰に体を預ける。

東都から帰ってきて早々こうして襲った訳だが、襲われた張本人である千尋は如何してこんなことになっているのか判っていないようだ。
涙で潤んだ瞳には疑問しか浮かんていない。

「私が何に怒っているか判るかい?」
「…」

努めて優しい声を出して問うてみるが心当たりがないのだろう。少しばかり泣きそうな顔で千尋は首を横に振った。

正直なことは良いことだ。余計な怒りを買うことがないのだから。然し今の太宰にその素直さは火に油を注ぐようなものだ。
態とらしく笑みを浮かべた太宰は千尋に顔を近づけ額をくっつける。

「ねェ、本当に判らない?」
「……判らない」
「本当に?身に覚えがない?」
「、」

太宰の言葉に千尋が息を飲む。漸く思い浮かんだであろう事実に少しばかり顔を青くしている。
その様子にクツリと喉を鳴らして笑い、太宰は千尋の耳元に口を寄せて囁いた。

「私はね、君のことなら何だって知っているんだよ」

例えば君に言い寄る男がいることとか。千尋の体が揺れる。
嘗てはマフィアとして己を使い情報を集め働いていたというのに彼女は対太宰になると隠し事の一つも出来なくなってしまう。其れが愛らしくって太宰は笑みを深くした。

「あの男、だれ」
「、」

とても冷たい声が出た。その声を耳にした千尋が息を飲む音がした。
そのまま離れる為か彼女が身を捩ったが、離れないようにと腰に回していた腕の力を強くする。

浮気は駄目だと散々云い聞かせてきたのに、と目を合わせると先程より顔を青くした千尋が映った。

最近千尋が気に入っている喫茶店の店員。
あんなにも露骨に好意を伝えてきているのに早く断らない千尋にも腹が立つが、自分のものに手を出そうとしている男にも腹が立つ。

彼女の右足に手を伸ばす。無機質な肌に手を這わせ義足を外す。鈍い音を立てて義足が床に落ちていった。

「治く、」
「このまま左足も落としてしまおうか」

そうすれば何処にも行けないね?
態とらしく笑みを浮かべると、幾度か何かを云おうと口を開くが千尋のロから声が出ることはない。云いたいことがあるなら云えばいいのに。

千尋の首に手を添える。

「鳴呼、首輪をつけるのもいいね。君の肌は白いから黒でも赤でも似合いそうだ」
「…………治くん」
「私以外がいる場所にいるから目移りしてしまうんだ。其れなら誰もいない場所に、」
「治くん」

千尋の手が太宰の頬に触れてくる。黒曜石のような瞳が太宰だけを映していた。

そ、と唇が重なる。先程までの激しい口付けではなく、触れるだけの其れに太宰の中で沸き出ていた醜い感情が鎮まっていくのが判った。

「好き、治くん、好き」
「……騙されないからね、そんな可愛いことしたって私は怒ってるんだから!」
「治くん、」

怒らないで、と抱き着いてくる千尋に太宰は何も云えなくなる。
己も彼女のことをよく知っているけれど、千尋も太宰のことをよく知っているのだ。どうすれば誤魔化せるのか熟知しているだろう。

はぁ、と諦めの息を吐く。

「次同じことがあったら本気で首輪つけるからね」
「うん」
「でもつけていないのも心配だから、代わりのものをつけようか」
「えっ」

少し困惑している千尋をそのまま抱き上げる。義足をつけていない彼女は自力で歩行することが出来ないので太宰にされるがままだ。

「君に似合いそうなネックレスを見つけたんだ。肌身離さずつけてね」
「……判った」

領く千尋に太宰は満足そうに笑った。
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