沈めよ、太陽
その日の夕焼けは、燃え盛る炎のような色をしていた。
「ナツ」
廃墟の窓からじっと、静かに夕日を見つめるナツに声をかけたが返事はない。
今日は街外れの廃墟にすみついた盗賊の退治を依頼されて、いつものメンバーで仕事へ来ていた。
このメンバーでこんな仕事が長引くこともなく、直ぐに終わり宿へと向かうはずだった。
それが、こいつのせいで長引いている。
俺が連れて帰る、とルーシィ達に聞かせると「じゃあ任せたわよ」とみんなは既に宿へと向かっていた。珍しくハッピーもいない。
「ったく、いつまでそうしてんだ。おい、帰るぞ」
「………」
いくら声をかけても返事がない。非常に、珍しいことで少し俺は困惑している。
こちらを見向きもしないナツの表情は全くうかがえず、もしかしたら泣いているのかもしれない、とバカなことまで考え始めた。
「まさか…泣いてんじゃねぇだろうなァ、ナツさんよォ」
するとナツがぴくり、と反応をみせた。
「誰が泣くかよ…」
そう言いながらもまだ夕日を見つめるナツ。その顔が少しこちらを向いた。
その表情は酷く、切ない感情をあらわしている。
「お、おいどうしちまったんだよマジで…」
「…懐かしい感じがするんだ」
「は…?」
「この色、イグニールにそっくりだ」
ナツがそう言った瞬間、俺はあぁ…と何故か納得をしてしまった。
「空ってすっげーでけぇよな。イグニールも大きかったけど」
「まるでイグニールに包まれてるみたい…ってか?」
「……」
俺の言葉にナツは頷き、やっと俺を見た。
「わりィな、帰ろうぜ!」
「…ナツ」
「?」
ナツの呆けて開いたままだった口にそっと自分のを重ねると、驚いて逃げようとした。
逃がすまいと頭と腰を俺の手でそっと抱き寄せるとナツは抵抗もせずじっとしている。
俺はイグニールのかわりにはなれない。でも、お前の頭の中を俺でいっぱいにしちまえば、お前はつらいことをあんまり思い出さなくなるだろ?
「グレ、イ」
「ナツ…寂しいなら寂しいって言え」
「な、そんなこと…!」
「俺がいつでも隣にいてやる」
「!」
「俺のことしか考えらんねーように、してやっから…―」
沈めよ、太陽
(20120725)
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