二度目の出逢いでは最初に告白するよ
あれ、と思った。大まかには整理された引き出しの中、小さな箱には更に小さなシルバーの指輪がそっと存在していた。
こんなもの、持ってましたっけ。
考えて、わからなくて、悩んで、結局捨てることも出来ず、それは元の定位置らしい場所に戻った。
探していたはずのバスケ雑誌が何故か本棚に並んでいる。読みかけの小説を開いたらまだ到達していないところに栞が挟まっていて、しかもその栞も見覚えがない。誰かのものと取り違えたかと思ったほどだ。
栞を片手に考え込んでいたら、火神に声を掛けられた。経緯を説明すると、困ったような顔で濁される。
彼には珍しい態度だったのに、追及する気が起こらなかった。
日常にぽっかりと空いた、違和感の空洞。
――何が足りないんだろう。
僕は、何を。
忘れているんだろう。
 ̄ ̄ ̄
ぼんやりと指の中で銀色の輪をもてあそぶ。顔を上げれば建ち並ぶ民家の間から、さえざえとした月が覗いていた。
月光を反射するように、つるりとした表面か煌めきを反射する。
綺麗だな。
『――綺麗だね』
「――…、……?」
かつん。指先をすり抜けたリングが、灰色の路地を転がってゆく。
くるくる転がる、銀色の。
「あ……っ」
走り出す一歩手前に、それは何かにぶつかって無限の形を描き、からりと止まる。
誰かの指が、それを拾い上げた。
視線が、絡む。
どくり。心臓が揺れて、動けなかった。
相手は目を見張って、じっとこちらを見つめた。それからゆっくりぎこちなく、微笑んだ。
「…こんばんは。――…これ、貴方のですよね」
黒髪と、吊りぎみの愛嬌のある目。
差し出されたそれに、反射的に手を出す。落とされたそこから、金属の冷たさと自分の手の冷たさが同化する。
「……今日は」
どうしてだろう。
どうして彼は。
「綺麗な、月ですね」
泣きそうに、笑うんだろう。
「――本当に」
どうして僕は。
「月が、綺麗だね」
泣いてしまうんだろう。
「………、――た…」
白い吐息が闇の上に、散る、散る。
最後の体温が、唇から散った。
「たかお、くん――…」
時が止まる。最初に動き出したのは、互いの目の縁から溢れた雫。
彼はくしゃりと顔を歪ませて、それでも懸命に、笑った。
「――おかえり、黒子」
これで、最後。
広げられた腕の中へ、飛び込んだ。
二度目の出逢いでは最初に告白するよ(ただいま、愛し君よ。) ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
記憶喪失になっていた黒子
高尾とは恋人。待ち合わせ時の事故だったので、高尾はそれから関わらないように
2013/12/01 初出