理解不能な√たち

部活が終わった。

もう冬なのか、それともまだ秋のカテゴリに入るのかわからない空気の冷たさが火照った身体から熱を奪っていく。でもこのままだとすぐ身体が冷えすぎるのはわかってたから、ダサくても制服の上に羽織ったジャージのファスナーを一番上まで上げとく。

部活は終わった。けど、体育館からは硬いボールが叩きつけられて床下を反響する音と、バッシュの軽い音が子どものピアノみたいに不安定なリズムで伝わってくる。

今日は一人。ボールの音もバッシュが擦れる音も軽い。力強かったり速かったりしない。

そっと扉を押して隙間から身体を滑り込ませると、中は無人、に見える。なのに物音は聞こえてくる訳だから、最初はまじでびびった。けどこれも慣れだ。目を凝らせば、どっかのゴールの近くに

「――降旗君?」

「うわああっ」

「…………大丈夫ですか」

「お、おっ…、おう!」

前言撤回。これだけは慣れない。だって、何で、俺の後ろにいんだよ。

「忘れ物でも?」

「いや、違くて」

まだ心臓がどきどきいってる。ほんとびびりだな俺。

「これ、スポドリ、余ってんの貰ってきたから」

ばっ、て警察手帳みたいに突きだしたら、黒子は無表情の癖に少しだけ雰囲気を和らげた。













 ̄ ̄ ̄


「ほんとに好きなんだな」

見てたら、ほろって、崩れるみたいに口に出してた。

今までにも何度も思ったことだったけど、でも言ったことはなかった。でも、ずっとドリブルとシュート、リピート再生みたいに繰り返してる黒子見てたらやっぱり思う。こいつはすごいやつだなって、思う。

「好きなんだな、バスケ」

「……君も好きでしょう?」

「うん、俺だって、好きだけどさ」

でも俺のとお前のとじゃ、根本から違う気がするんだ。

「俺も、好きだけど」

何でそんなに、こいつはバスケが好きなんだろう。

さっきからずっと、ドリブルはずれるし足に当たるしシュートは入らないし届かない。俺でももうちょっと出来る。それでも好きでいるって実は結構難しいことなんじゃないか。

頭の悪い疑問は、シュートする黒子にあっさりぶつかった。

「やめようとか思ったことねえの?」

「ありますよ」

がんっ。

ボールがリングにぶち当たって落ちた。そのまま跳ねる、跳ねる。

即答だった。それはそんなに驚くことじゃない。だって俺は黒子なら、ありませんとかないですとか、そういうことさらっと言うもんだと思ってたんだ。

「………あんの?」

「はい。ご覧の通り才能がないですから」

傷がついた艶々の茶色い丸を拾いながら黒子が頷く。さらっとしてる。

「けれど青峰君に救われて、キセキのみんなに助けられました。おかげで君たちとバスケをしていられます」

だん。ボールがバウンドしても、火神みたいに響かない。

「やっぱ、わかんねえなあ」

「そうですか」

「凡人にはわからん」

またはずれたシュート。俺が何歩か歩けば手に取れる距離まで、コロコロ転がる。

「じゃあ僕の考えはわかります?」

「………いや、だからわかんねえって」

またシュート。リングの縁をぐるぐる回る。

無意識に、拳に力が入った。

――入れ。

「あのときやめなくて、本当によかった」

ぱすん。小さい音。黒子のバッシュの音と同じ。小さい独特のリズムに胸が弾む音。

「ここで君たちとするバスケは、特に好きです。この理由だけは、言える気がします」

俺もだよ、って、返してもいいのかな。







だってその理由だけは、俺もわかるんだ。



















たち



















 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
降旗誕


2012/11/08 初出



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