現実連鎖キネマ
巨大なスクリーンにエンドロールが流れ始めると、ところどころから席を立つ足音が暗闇を揺らす。
そうして静けさに満ちていた空間が崩れていった。いつの間にか形成されていた繭のような世界が少しずつひび割れていって、ほろほろと消える。黒子はその余韻に浸りながらほっと息を吐いた。
「……終わったなー」
呟き程度に、余韻を壊さない切り出し方をする高尾。頷いた氷室は最後に残ったコーヒーをあおる。
「面白かったね」
「はい。誘ってくれてありがとうございました、高尾君」
「いや誘うやついなかったから逆に助かったわー」
緑間と恋愛モノはなー。肩をすくめている高尾と緑間が並んで恋愛映画を見ている光景を想像し、黒子は視線を逸らした。口元が震える。
「黒子ー、何考えてるかわかってっかんな」
「いいんじゃない? 相棒同士でロマンス見ても。周りは映画鑑賞どころじゃなくなると思うけど」
「ちょ、氷室さんまで。俺らが見せ物じゃないすか」
初公開からそれなりに時間も経っているため、元々少なかった客はもうほとんど姿を消している。
「映画来たの久しぶり……というか、恋愛モノを映画館に見に来たのは初めてです」
「俺もー。クラスメイトからチケット貰わなかったら来なかったよ。楽しんだけど」
「カズナリの趣味じゃなかったのか」
「そっすよー。氷室さんはこういうの見そうっすよね。アクションとかより」
「そんなことはないよ?」
プラスチックのトレーに紙コップを戻して自然な仕種で長い脚を組む。エンドロールはもう終わりに差し掛かっていた。
「氷室さんはどうします?」
「何がだい?」
「大切なひとが、遠くに行くことになったら」
並ぶスタジオの名前を流し読みする高尾の横顔を黒子は見つめた。
映画の内容はありきたりなものだった。構成がしっかりしていたから楽しめたものの、設定としては両想いの主人公とヒロインがいて、ヒロインが難病に掛かる。海外へ治療に行く想い人に、主人公が心を告げて再会を誓う。そういう話。
「もし好きな人が海外行くってなったら、どうします?」
「んー…」
脚を組み換えて考える素振り。だが答えは決まっているようで、口元には薄く笑みを浮かべていた。
「追い掛ける、かな」
「へえ。結構情熱的ー」
「そうかい?」
黒子もそう思うかと問われるように視線を流されて一口カフェオレを飲み喉を潤す。生憎映画館にバニラシェイクはなかったから。
「ずっと待っているイメージもありますけど、そういうのがらしいと思います」
「あー」
高尾が同意して虚空を見上げた。自分はそんなイメージなのかと氷室は軽く声に出して笑う。
「そういうカズナリは?」
「えー、俺?」
うーん、と仰け反ってわりと真剣に黙考している。高尾は追いそうではないなと黒子は密かに推測した。
「俺なら……待つ、か、元から一緒に行く」
「らしいね。カズナリは強引に見えて結構献身的だ」
「え、そすか?」
「僕もそう思います」
自分に対する周囲の認識が意外だったらしい高尾は素で驚いている。
エンドロールが終わってスクリーンがぱっと光をなくす。同時に氷室は組んでいた脚を解いた。
「テツヤは?」
「僕ですか」
「黒子なら追ってほしい? 待っていてほしい?」
「そっちですか」
口を出した高尾に氷室が首肯したため、黒子は少し俯きぎみに考える。
僕なら。
徐々に暗かった世界に明かりが戻った。
「――まず、追わせたり待たせたりする状況にさせないです」
高尾が吹き出して氷室も声を出し笑う。黒子が立ち上がると、後を追って二人も席から腰を上げた。
「帰りマジバ寄る?」
「賛成です」
「本当に好きだね、シェイク」
重い扉を押すと、更に強い光が差し込んだ。
そうしてまた、現実に戻る。
現実連鎖キネマ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
>>鴉様
お待たせ致しました、鴉様
勿体ないようなお言葉ありがとうございます、とてもご丁寧なメールを頂けて嬉しかったです
魅力的なリクエストも頂けてテンションが上がりました^^
楽しく書かせていただいたらかなり緩くなってしまいましたが…こののんびり感は鴉様も想定外ですよね((((
この未熟なサイトを少しでも楽しんでくださるならとても幸せです…!
これからも宜しくしてくださると嬉しいです、ありがとうございました!!
2013/02/16