爆弾常備のお姫様
「ちょっ」
マジバにて。
僕の指先に柔らかな感触が感じられると、高尾君が声を上げて笠松さんが固まる。今吉さんの目が何だか光った気がするけれど、まあ気のせいだろう。
「わしらの前で、ええ度胸やな」
「何がですか? 挨拶ですよ」
にこりと微笑んだ氷室さん。高尾君が何故かおかしな顔をしている。
「………おい、大丈夫か?」
「はい?」
「いや、何も言わねえから」
さっきまで何故か凍りついていた笠松さんが僕を心配してくれる。ありがたいが、心配されるような覚えがなかった。
「黒子ー? お前も他になんかないわけ。指にキスなんかされちゃってさあ」
「……? 別に、普通でしょう?」
ぴしゃり。今度は空気そのものが固まった気がする。
氷室さんまでもが顔に笑みを貼り付けたまま動かない。こわい。
「……誰かにこういうことよくされるの? タイガとか?」
「いえ? 中学のとき、キセキの皆が」
ひやり。今度は温度が下がった気がする。何なんだ。
しかし話していたら思い出してきた。あの頃はよりスキンシップ過多だった…っけ? 今もか。
 ̄
「黒子っちー! おはよっス!」
体育館に入った途端左手から黄瀬君に抱きつかれた、というか飛び付かれた。重い。それによく僕が来たとわかるものだ。
「おはようございます黄瀬君」
「うんっ」
元気だな、と思ったのと同時に頬にキスされた。それはそれとしていい加減、離れるか腕の力を緩めるかしてほしい。
「黒子っちー、今日放課後うわつ!?」
ばっと身軽に飛び退いた黄瀬君のいた場所に、つまり僕の隣に寸分狂わずボールが落下した。響くいい音を奏でて跳ねるボールと、飛び退いた奇妙な体勢のまま固まっている黄瀬君。
「何するんスか緑間っちー! 黒子っちに当たったらどうするんスか!?」
「俺がそんなミスをする訳がないだろう、馬鹿め」
眼鏡のブリッジを上げながら近づいてきた緑間君は、もう片手に新しいボールを準備していた。
「おはようございます、緑間君」
「おはよう、黒子」
テーピングをしたままの指が僕の手をすくって、甲に掠めるようなキスが落とされる。むくれた黄瀬君が逆側からまた抱き締めてきて、再び息苦しい。
「俺が話してたんスよ!」
「黒子が苦しがっているだろう。とっとと離せ」
「いやーっス」
「おい」
「アララ〜?」
間延びした声が乱入してきたことで二人の気勢が削がれた。朝からコンビニの袋を下げてきた紫原君が、ゆらゆら身長に比例して大きな手を振る。
「おはよ〜、黒ちん」
「おはようございます紫原君」
「朝から菓子を食うな」
「俺らには挨拶なしなんスかー」
「だって黄瀬ちんたちうるさーい」
尖らせた唇をそのまま僕の額に押し付けてくる。普段は面倒がりなのに、前髪を掻き分けるのは忘れないから不思議だ。というかそれより。
「むらさきばらくん…」
「んー?」
「おも…ぃ……で…」
「思い出?」
「黒子が潰れるのだよ紫原!」
「いえ…このくらい、へーき、です……」
「黒子っちも何でそこで意地はるんスか!」
べりっと二人がかりでのし掛かってきた紫原君を剥がされる。助かっ……たと言っておくことにしよう。一応。
「おめーら何やってんの?」
そこにようやく青峰君がやってきた。しかも遅いと思ったら汗だくでの登場である。
「遅刻なのだよ、青峰」
「あー? ギリセーフだって。いや近くでストバスやっててさあ…」
「交ざってきたんスか」
「勝ったぜ。はよ、テツ」
「おはようございます」
自然に身を屈めて首筋にキスされた。
「ってっ。てめ、何すんだ」
「屈まないでください、不愉快です」
「屈まねーと出来ねいったっ」
僕につねられた手をぶんぶん振り回す青峰君。まったく失礼なひとだ。
「すーねんなよ」
背後から抱きつかれ、逆の首にまたキスされる、というより噛みつかれた。
「青峰、お前は埃っぽいのだから黒子が汚れるだろう」
「ああ、そうでした。ストバスして遅れるなんてダメでしょう青峰君」
「黒子っち抱きついてんのはスルーなんスね」
「黒ちーんこれ食べよー」
「もうすぐ練習ですよ」
「――正しくは今からだ」
世界が一時停止した。
「おはようお前たち。部室にも行かず何をしているんだろうな」
「………おはようございます、赤司君」
「おはよう、黒子」
問答無用で青峰君を僕から引き離し、肩を抱くとこめかみに唇を当てた。僕の肩を掴む指に、何だか力がこもり過ぎているような気がしないでもない。
「練習、頑張れよ?」
笑ってまたキスをされて、取り敢えず頷くことだけしておいた。
ちなみに不満げな他のキセキの皆さんは、赤司君の一言ですぐさま外周へ行ってしまった。
…………でも何故か、あの四人だけ。
 ̄
「………そんな感じで一日が始まっていました、あの頃は」
「……へー」
笑いながら高尾君が高速で携帯をいじっている。氷室さんもさっきと同じ笑顔のままコーヒーを飲み、笠松さんは準備運動をするかのように首を回していた。今吉さんは細い目を薄く開いていやな笑みを浮かべている。何だろう、これ。
「真ちゃんってば初そーな顔してさー。ったく」
「アツシには俺から言っておくよ」
「黄瀬は任せとけ。万倍シバく」
「青峰もうちでカタつけとくわー。問題は赤司やな」
キセキの皆がどうかしたらしいが、何かまずい話をしただろうか。
………まあ、どうでもいいか。
一口飲んだバニラシェイクは、今日も美味しい。
爆弾常備のお姫様 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
>>神奈川の荒鰹様
初めまして、リクエストご参加ありがとうございます^^
お待たせしてしまいすみません、キセキ黒と相棒黒、両方含むものにしました
赤司側からも誰か出すか迷ったのですが、定番の4人にさせて頂きましたー
拙い文章ですが、少しでもご期待に添えられていたらと思います
ありがとうございました!!
2013/02/14