Hide and Seek
例えば自分たちが、何も知らない自分なら。
この距離は変わっただろうか。
Hide and Seek「まだ冷えるなー」
「ええ。昨晩は雪降ってましたし」
「まじ?」
「そっちは降らなかったですか?」
俺と黒子の間に、小さな空間。緑間とか誰かが入るには狭くて、でもずっと、縮まらない。
目の先で着込んだ子供がばたばた走ってる。俺らの位置からだと植え込みの陰にもう一人、小さな姿がひそんでいるのがまるわかりだった。
「……隠れんぼですかね」
そっと、気を遣うように微かに黒子が呟く。この距離じゃあ、気遣いも何もないのだけれど。
「高尾君、隠れんぼ強かったでしょう」
「鬼のときはなー。それいうなら黒子じゃね」
「唯一得意だったスポーツです。鬼のとき以外は」
「スポーツかよ」
動かない無表情で頷く姿。
「好きだったのか、隠れんぼ」
「…………さあ、どうだったでしょう」
「――俺は微妙だったな」
鬼らしき子どもが背の低い木々を漁ると、大袈裟にびくっとする隠れた子供。そろそろと中腰のまま移動しようとする。
嫌いだったんだろうな。
見つからない姿。見つけてもらえない自分。
見つけられるなら。
「……俺なら――…」
「……何です?」
「…んー? いやガキの頃の俺と隠れんぼやったら、俺見つけてたんじゃね、と思って」
「かもしれないですね」
「な」
『ガキの頃』。そういって隠した『今』。
黒子にあやしまれただろうか。前を向いた目は冬空みたいに静かだったから、俺の言葉なんて気にしていないに違いない。
それに傷つくような、安堵するような。
今からでも。こいつにそう言えたなら。
この距離はなくなるのか。
少し傾く爪先。視界の奥で、植え込みの陰にいたのは鬼役の子供だった。俺達が見つけた子供は、もう何処にも見えない。
あの子は鬼から逃れたらしい。
爪先を戻す。相棒と並ぶときよりも遅いペースで、また前へ前へ。
この距離がなくならない。
鬼役が辺りを見渡す。結局見つけられなくて、何度も名前を繰り返してる。
俺はきっとお前が見つからないとき、名前も呼べない。
「黒子」
「はい」
「じゃ、俺はここで」
「ええ。また」
「うん、また」
角を曲がる。鬼はまだ探してる。
俺の視界からはずれるまで、その子は見つけられなかった。
 ̄ ̄ ̄
「ええ。また」
そっと最後に付け加える、再会の約束。彼は緩く笑う。
「うん、また」
向けられた背に、腕がぴくりと反応した。だめだ。僕は彼を引き留める理由を持っていない。
もっともらしい理由は、持っていない。
彼の姿は、雑踏に紛れて消えてしまった。一度も振り向かないのは普通のこと。僕が不貞腐れる理由にも傷つく理由にもならない。
子供たちに目を移すと、鬼の子供がずっと名前を呼んで辺りを探している。けれど段々声が小さくなっていって、とうとう名を呼ぶのも探すこともやめてしまった。
僕もまた歩く。もう一度彼の去った方を見たけれど、僕には彼のような眼はなく、その姿を確認することは出来なかった。
子供たちを通り過ぎる。僕らがあんな風に出来る時間はもうとっくにない。隠れんぼの時間はない。
――背後で、歓声が上がった。
振り向くと、手を繋いではしゃぐ二つの影。
自分から出たのか、見つかったのか。
どちらかはわからなかった。
僕が自分から見つかりたいのか、見つけて欲しかったのかも。
もういいかいまあだだよ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
>>蕨様
大変お待たせいたしました!
企画ご参加ありがとうございます^^
花黒お好きと言ってくださって嬉しかったです…
緑←黒←高はずっと書きたかったものをようやく形に出来たお話なので、私も思い入れが強くて
今回両想いだけれどすれ違いな話に挑戦しましたが、きちんとそれが出ていれば…いいなと←
時間が掛かりすみません、リクエストも私などの話が好きだと言ってくださったことも、とても嬉しかったです^^
ありがとうございました、よろしければこれからも、お付き合いくださいませ!
2013/02/10