アンダンテ逃避行

玉砕覚悟でコクったら、そいつは奇跡的にも特に取り柄のない、平凡な俺の恋人になってくれた。そうなったからには、やっぱりデートってやつをしたいと思う。

「つ…次の休み、空いてるって言ってたよな? 一緒に、遊園地行かね?」

噛まないように頭の中で何度もシミュレーションした台詞を口にしたら、黒子は嬉しそうに笑ってくれた。



















逃避行



















視線が定まらない。いつもはどんな風に景色見てたんだっけ……やばい、落ち着け俺。

「降旗君? どうかしましたか」

「え!? いや、別に!?」

心配してくれる黒子に首を振る。

俺、今、すごい緊張してる。

それは恥ずかしながら人生初のデートだってことも勿論あるんだけど、別の理由も大きかった。昨日うちに差出人不明で贈られてきた鋏だ。差出人に心当たりはある、が、何処から住所が割れたのかは心当たり全然ない。めちゃくちゃ怖い。

けど、誘ったときの黒子の笑顔思い出したら行かなきゃって思えたし、何より俺だって行きたかったし。やっと、やっとここまで来たんだ。絶対譲れない。

「じゃ、行くか、黒子!」

意気込んだまま手を取ったら黒子が目を見張って、思わず離しかけたらそっと握り返される。固くて、でも伝わる体温に、俺の顔に血が上った。















「なんか乗りたいアトラクションとかある?」

「いえ……あまり詳しくないので。パンフには何かありますか?」

「えっと…」

貰ったパンフレットを片手で広げると、黒子が空いた手で端を持ってくれた。小さな気遣いがより嬉しくて、でも身体が近くなって緊張。

「近いとこだと…」

『そこの可愛い子とモブ……そのお友達! ここのアトラクション楽しいっスよ!』

「うわっ」

振り返ったら、クマか何かのキャラクターが看板を持って立ってた。今のくぐもって聞き取りづらい声はこいつのらしい。

着ぐるみって大抵はそうだけど、この着ぐるみはなんか更に背が高い気がする。

「ここのアトラクションって……お化け屋敷だよな?」

メルヘンなキャラと看板や背景のおどろおどろしさがなんともミスマッチ。着ぐるみは独特の大袈裟なリアクションで両手を上げた。

『もしかしてコワイとか!? 情けないなー』

「………というか」

黙りこくってた黒子がぼそりと声を発した。何かクマが固まった……っていうかなんか、黒子の目が冷たい気がする。

「着ぐるみって喋ってもいいんですね」

ド直球にクマが看板を落としかけた。珍しい、黒子はすごく空気読むのに。

『え、いや俺は特別ってゆーか…いや、そうじゃなくて、俺はおしゃべりなウォンバットさんで』

「行きましょう降旗君。コーヒーカップ乗りたいです」

「え、黒子っ」

クマじゃなかった、とか驚いてたらぐいぐい腕が引かれた。慌てて黒子と並ぶと背後からぎゃーとかわーとか聞こえてきて、振り向いたら青とか黄色のカラフルな何かが見えたけど、黒子に引き摺られてよくは分からなかった。















いくつかアトラクションを楽しんでたらあっという間に昼時だ。時間がいつもより早くてちょっと悔しい。

「食べたいもんある? バニラシェイクとかあるとこ探すか?」

嬉しそうに雰囲気を変える黒子に俺も頬を緩ませながらパンフレットを開くと、途端に近くに屋台型の車が止まった。よくポップコーンとか売ってるあれで、どうやらジェラートを販売してるらしい。ジャストタイミングだ。

「行ってみるか? バニラあるかも」

「はい」

「やーっ、いらっしゃいませ!!」

頷き合うのを待っていたように快活な声が弾ける。車の奥で店員さんらしきひとが手を振っていた。

「いやいや運がいいねお二人さん! 今先着二名様までサービスするよ!」

ピンポイント過ぎやしないか。

「何? バニラ? おーい真ちゃ……じゃねーわ店長、バニラー!」

「あの、まだ注文してな……」

矢継ぎ早な感じになんとなく不安を覚えて断りを入れようとしたが、車の助手席から顔を出すものに目を奪われてしまった。何だあれ、巨大マトリョーシカ?

「………おい」

「ん? 何よ店長」

「俺のラッキーアイテムを知らないか?」

「あ、あれなら邪魔だったから助手席に……てかアレ何」

「何勝手なことをしているのだよ俺のアイアンメイデンに!!」

アイアンメイデン!?

だから注文してないとか、何でそんなもの持ってるんだとか、そういうことを言う前に、無意識で黒子の手を握る自分の手に力が籠った。

「っえ、降旗君!?」

「あっ、ちょ、お二人さん!」

黒子にも店員の人にも声を掛けることなく、俺は黒子の手を引いて走り出していた。

「降旗く…」

「なんかっ、やばい感じ、するから! 行こう!」

懸命に声を張り上げたら。

強く手が握り返されたのに、気づいたのは後だった。













お互いに体力はあまりない。近くのベンチに並んでへたり込んでから、息が整うまで二人して口もきけなかった。

「ご……ごめんな…黒子……」

「……いえ…」

まだ肩で息してる。ほんと悪いことしちまった。せっかくのデートだってのに、何してんだ俺は。

高い声ではしゃぐ子どもたちとか、男女のカップルとか。今更周囲とのずれが身に染みる。

「…あの」

まだ荒い息遣いに少しびっくりした。隣を向いたら、少し笑う黒子。

最近笑う黒子をよく見る気がする。それって、どういうときだっけ。

「僕も離れたかったので、助かりました」

黒子の笑顔はいつだって綺麗だ。きらきらしててすごい、なんていうか、優しい表情だと思う。

「――…手を引いてくれたときの降旗君、格好よかったです」

「……あ、え」

顔が熱くなるのが自分でわかるくらいだったから、無性に顔背けたかったけど、俺の方が釘付けで目が逸らせない。

「すみません、降旗君。ちょっと面倒なことになってるみたいなんですけど」

そっと、俺の手に触れた黒子の手は温かい。しかも黒子から手握られたの、初めてだ。

「まだ……続けてくれますか?」

デート。

ちょっと顔の赤い黒子が、すごく可愛くって、勿論って頷きたくて。舌が縺れてどうしようもなくなる。ただ手を握り返すのは当たり前だった。

「ま…まだまだ時間あるし! 一緒に楽しもうな、黒子!!」

自分で驚くくらい意気込んだ台詞を聞いて、微笑んでくれたその顔に、一番見とれた。

































「おいテツは!? 何で俺出さなかったんだよ!」

「青峰っちがあいつ殴ろうとするからじゃないっスかー!」

「店長それは置いてけって!」

「いつまでそう呼ぶつもりなのだよ!!」



「なんか今、聞いたことある声しなかったか?」

「気のせいですよ。次は観覧車乗りましょう」

「おうっ」



















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>>おるふぃ様

初めまして、おるふぃ様

企画ご参加ありがとうございます!

降黒をリクエストしてくださる方がいらっしゃると思わなかったので、とっても嬉しかったです^^

黒子大好きな降旗君を楽しく書かせて頂きました……黒子も降旗君がすごい好きっていうのが出ていればなあと思います

私などの文章にときめいてもらえるのなら本当に幸せです…!

ありがとうございました、これからも頑張ります!


2013/01/21






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