その鉄は溶けませんお気をつけください

靴箱を開けると封筒がはらはら落ちた。降旗が固まる。

「……毎度毎度飽きないですね」

「飽きねえだろ」

火神は気持ちの悪い物でも見たかのように顔をしかめた。
















「しつっこいわね!」

「おい帰れ駄犬。うちのテツナを誰がやるか」

「いいっスもん! 黒子っちがOKくれたらすぐ転入させるっス!」

「まずOKしません、黄瀬君」

「何でっ!? 転入届靴箱入れといたでしょ!」

「すみません、あれなら封を切る前に破り捨てました(先輩たちと火神君が)」

「謝ってるわりにひどいっスよ黒子っちー! 海常のマネージャーやってよ!」

「辞退させていただきます」

「しつけえんだよダアホ! 神奈川帰れ!!」

「これ以上うちの子の手を煩わせるんじゃないわよ! 八つ裂きにされたいの!?」

「いーやーっスー!!」

「子供みたいなことしないでください、可愛くないので」

黒子に抱き付く黄瀬、それを引き剥がすカントクと日向、微動だにしない黒子。カオスな光景はもはや誠凜高校バスケ部名物と言って差し支えない。

「おい高尾、お前が信号なんぞにかかったせいで先を越されたのだよ」

「俺のせいにすんなよー…やっほーテッちゃん! 会いに来たよ!」

「下がれ」

「殿様かよ」

カントクその他のこめかみや口元が引きつったにも関わらず、黒子は黄瀬にくっつかれたまま無表情で会釈を返した。さすが元伝説のバスケ部マネージャーは動じない臆さない……と賞賛したいが、実質的には悟りの域に達している。

「緑間君、高尾君もお帰りください。僕はあんな痛々しい乗り物に同乗する気はありません」

「じゃー歩いて遊びにこーぜ」

「お前は黙っていろ。おい黒子、率直に言おう。秀徳に来い」

「率直に嫌です」

「フるの早。そんじゃあ秀徳の件は今度でいいからデートしよう」

「だからお前は黙っていろ。本当に黙れ。おい黒子、転入」

「届は捨てました。一体どうやって入れたのかはあえて訊きませんが、人の靴箱をいじるのはやめてください」

「やったのは高尾だ」

「ちょ、何勝手に濡れ衣着せてんの」

「何はともあれ黒子に構うのやめてくんねーかなぁ」

「誘拐は愉快じゃないな」

「うん、それはいらないなー」

ずいと黒子の前に進み出る木吉と伊月。登場の仕方はやや残念。

「“鉄心”か。だがたとえ無冠の五将がいるとしても、黒子はうちにいるべきなのだよ」

「その呼び方はやめてくれよ。それに黒子がここにいるって言ってるんだ。潔く諦めろよ」

「けど実際相性って大事じゃないすか? 俺ならその点テッちゃんと相性バツグンっすよ」

「俺がいるからうちでも問題ない」

「けどあんたが見失う遠くでも、俺ならテッちゃんのこと見つけられますよ。えーっと、伊月先輩?」

「安心しろ、黒子はいつも俺の近くにいるから。遠目に見つめるだけのお前と違ってな」

猛禽の瞳が挑発的ににらみ合う。なんかもう学校云々の話ではなくなってきたなと、くどい緑間と掴み所のない木吉の会話を聞き流す。

「だからーっ、ダメだってば!」

「……………」

「るっせーな! 俺はテツに用があんだよ」

「………増えましたね」

背後で火神がげ、と声を漏らした。視線は言うまでもなく、青峰と彼を羽交い締めにしている小金井と水戸部に向いている。

いつの間に何処から入ったのか。

「黒子は桐皇には行きませんー!! 帰ってくれもう!」

「…………」

「だからテツに訊くっつってんだよ! つうかこっちのヤツ何でさっきから喋んねえの!? こええんだけど!」

さすが誠凛のミスターミステリアス。あの暴君さえ怯えさせるとは。

「青峰君、誠凛の水戸部さんは寡黙で有名なんだよ」
いや有名ではないだろう。

「こんにちは桃井さん、青峰君」

「テツ君! 転入届書いてくれた!?」

「すみません、僕は誠凛を出る気はないんです」

「何言ってんだテツ、桐皇来いよ」

「お帰りください」

「扱いの差が露骨なんだよ」

「よく露骨なんて言葉知ってましたね、すごいですよ青峰君」

フェミニストな女の子、それが黒子テツナ。

「おいお前らいい加減……っと」

突如火神の制服胸ポケットから流れる軽快な音楽。黒子はくいと片眉を上げる。

「電源切るかマナーモードでしょう火神君」

「わり…っつか、タツヤ?」

「氷室さんですか?」

メールかと思いきや電話だったらしい。怪訝な顔で耳に押し当てる。

「…Hello?」

『Helloタイガ! 突然なんだけれど黒子さんうちにくれないかな?』

「ほんとに突然だな!!」

爽やかに無理を言う。

『アツシがどうしてもって仕方なくてね』

「後輩のワガママ真に受けてどーすんだよ!」

『だって俺も黒子さんほしいし』

「誰がやるかバカ!」

『ねー黒ちんはー?』

「うおっ!?」

『黒ちん出してよー…はーやーくー』

「いきなり替わんなよ!」

「火神君、替わりましょう」

天の助け。火神はほとんど携帯を投げるようにバトンパスした。ごめんムリ。

『あ、黒ちん? ねえ陽泉おいでよ、一緒にお菓子食べ』

「もしもし、紫原君ですか? こんにちは。僕は陽泉には行きません。氷室さんによろしくどうぞ。では失礼します」

ブツッ。ほんとに切った。

「どうも、火神君」

「おお……なんかわりぃ」

何だか敗北感。紫原にではなく黒子に。

「僕もマナーにしてましたが、もう電源を切って……あ」

「どした?」

「メールが………赤司君から」

ぎょっとたじろぐ火神、と降旗。彼のトラウマは未だ払拭されていない。

「……そ、そうか」

「内容訊かないんですか?」

「訊かねーよ」

「では読みます」

「おいっ」

「『今度は破られる前に転入届書いてこっちに送ること。いいな』………」

部屋の温度が下がった。

口論というかめ揉めまくっていた皆も一斉に静まった。前のカオスより更に不気味。

渦中のひとはふむ、と一つ頷き、数回携帯を操作するとぱたりと閉じた。周りを見渡し、少し顔をしかめる。

「皆さん、いつまで誠凛にいるつもりなんですか? 早くお帰りください、練習の邪魔です」

勧誘を断るどころか相手にもしない、過ぎたことは気にしない。

「く……黒子、メールは…?」

勇気を出した降旗。頬が引きつるのはご愛敬。

テツナは頬に掛かる髪を凛然と振り払った。







「削除しました」







誠凛高校1年、バスケ部マネージャー黒子テツナ。

彼女の理性を揺るがすものは今現在、バスケとバニラシェイクのみである。


















そのけませんおをつけください


















 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

>>雪那様


大変お待たせ致しました!!

企画ご参加ありがとうございます、管理人の凍です

総受けとのリクエストでしたので、キセキ中心に回してみました

♀黒子でしたのでわりと鉄壁な感じにしてみようかと頑張ったのですが、あまり生かせず申し訳ありません……

ですが楽しく書かせていただきました

長期間お待たせしてしてしまいましたが、よろしければ当サイトをよろしくお願いいたします

ありがとうございました!!


2013/03/10






「#寸止め」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -