いばらの花園
(※三人先天性女体化のにょたゆり)
(※いぬぴとここくんもちゅーしてます)
First phase:ほっぺちゅー
ちう、とほっぺにやわらかいものが押し付けられて、タケミチはきょとんとした。
「……えっ、今ちゅーしました?」
「ああ」
うわ睫毛長。
間近の顔面力に全部持っていかれそうになった。違う違う。
顔を離さず近づけたままのイヌピーに、タケミチの方がのけぞる。
「な、なんで?」
「フツーだろ」
「エッ、いやいやいやいや」
読んでいた漫画が手から落ちる。生まれてこの方知らないフツーが飛び出してきた。イヌピーは狼狽えるタケミチにぴったり肩をくっつけたまま、向かいの椅子でスマホをいじっている幼馴染を仰ぐ。
「だよな、ココ」
「何わーわー騒いでんだよ、ボスは?」
組んでいた足を解き、ココもまたイヌピーと逆隣にやってくる。細腕に腰を抱かれた。はわわ……いい匂いする……。品よく香る香水に、同性ながらタケミチはどぎまぎした。
「花垣はしてくれねーの?」
自分の頬を指でとんとんと叩くココ。する? えっ、ほっぺちゅーを? オレが? ぐるぐる普段あんまり働いてない脳を回転させるタケミチに、白い頬が寄せられる。
「うぇ、で、でも、」
「ヤなの?」
ココの眉が下がった。あのいつも飄々としているココが、ちょっと切なそうに上目遣いでタケミチを見つめている。「うっ」と呻いた。
……二人が言うのなら、そんな身構えることでもないのでは。ここで拒否ったら傷つくかもしれないし。何より、女同士だし。催促するような視線に根負けし、勢いのまま、タケミチはえいやっとココの頬に唇を押し付けた。少し笑うような気配があった。「どーも」とイヌピーがしたのと逆の頬にちゅっとキスされる。唇ぷるぷる……。感動した。
「オレも」
ずいっとイヌピーの真っ白い頬が近づけられる。一人にしておいて拒むわけにもいかないので、ビスクドールのような透明感の頬に短くキスをした。すべすべつるつる、もはや陶器。
ご機嫌なイヌピーがタケミチの肩に手を回してこめかみや髪にちゅっちゅと唇を落とす。もにゅ、と彼女の豊かな胸に顔が埋まって、「ひぇ」と首から上に血液が集中した。しかし親が小さな我が子にするようなそれに、タケミチは擽ったくなってちょっと笑ってしまう。
くふくふと二人じゃれている間にココがタケミチの手を取って、鼻歌を歌いながら爪を磨き始める。この前は足の爪の甘皮を取られて磨かれたので、今度は手の方を始めるらしい。
「ココ君、せっかく綺麗にしてくれても、ケンカしたらボロボロになっちゃう……」
「爪塗るから剥げたらお仕置きな」
「んな無茶な」
タケミチの旋毛に鼻先を埋めながら、「オレが全部仕留める」とイヌピーが拳を握る。「イヌピー君の爪がボロボロになっちゃうのもやだなあ」とぼやけば、二人にぎゅうぎゅうに抱き締められた。くるしい。
Second phase:下着選び
視界に広がる煌びやかな布、布、布。
なんだか甘い香りのする眩しい空間に、タケミチは完全にビビっていた。
「こっちの色がいい」
「シェルフカップでもいいな」
かちゃかちゃと、ハンガーに掛かった下着を次から次へとタケミチの身体に当てていく部下二人。
「あ、あの」
「何? 大丈夫、つけるとけっこう盛れるやつだし」
「これは? これ着てる花垣見たい」
「ば、場違いすぎて店員さんに連行される前に外出てていいっすか」
ダメ。
二人から腕を掴んで引き寄せられる。イヌピーがあてがってきたのはもうほぼ紐だった。助けてくれ。
なんでひらひらきらきらランジェリーショップへ連行されたかと言うと、部下のおねだりが発端だった。
「パジャマパーティー?」
およそこの二人から出てきそうにない単語に、タケミチは目を瞬かせる。
「しねえ?」
「えーっ、モチロンいっすよ!」
「よし、じゃあそうと決まれば下着買いに行こう」
「話が違う」
にこにこ笑顔のココに引き摺られかけて、近くの樹を掴んで全力抵抗した。隙あらば貢いでくるのだ、油断ならない。
「いや、わざわざ買いに行く必要はないでしょ。しかも下着て」
「どうせダセェシャツとハーフパンツだろ? 萎える」
「すげぇフツーにディスるじゃん」
きょとんと「ディス?」と首を傾げられたので、慌てて口を押さえる。するとその手がするっと真白い手に取られた。
「お揃いがいいんだ」
「イヌピー君……」
じっと長い睫毛に縁取られた瞳に見つめられると、なんでもお願いを聞いてやりたくなる。が、タケミチはいかんいかんと首を横に振った。ここで受け入れたらクローゼットがぎちぎちになるまでブランドの服を詰められる。
「じゃあパジャマとしてシャツをお揃いにしましょう、古着屋へゴー」
「ベビードールがいい」
指を絡められて、タケミチは「べび……?」と固まった。ベビードール。それはあの、ドラケン君のご実家のお姉さまたちが身につけているような、ひらひらスケスケのやつでは?
「パジャマパーティーでしょ?」
「だから、オソロのベビードール」
ココに背後からぽんと肩に手を置かれる。いやいや待ってくれとタケミチは冷や汗を流した。このプロポーション抜群の二人と、お揃いのベビードール? 事故の予感しかしない。
「……いややっぱやめ、」
「花垣はオレらとはしたくねえのか……」
タケミチの手をきゅうと握りながら、イヌピーが視線を下げた。普段あまり表情が変わらない彼女が、目を伏せてしゅんとしている。
ココが労わるようにイヌピーの肩を抱いた。
「あんまりそういう機会なかったから、イヌピー憧れてたみたいなんだよ……でも仕方ねーよ、諦めようイヌピー? ボスに無理強いは出来ねえし」
「ああ、花垣が嫌だって言うんならどうしようもないな……」
「やりましょう!!」
そんなやりとりの後、一転笑顔の二人とおてて繋いでやって来た。さすがのタケミチも気づいた、小学生でも引っ掛からないような罠ではめられた。
しかしタケミチの下着を見繕う(なぜかベビードールだけでなくブラやショーツも吟味している)二人は本当に楽しそうで、店内の空気に気圧されつつも、タケミチは少し頬を緩ませた。
こんなことで二人が喜んでくれるのなら、一緒に来たのは正しかったのだ。うんうんと頷く。基本この部下二人に助けられてばかりの自分だ、めったにないおねだりをされたのだから、ボスとして一肌脱ごう。タケミチは覚悟を決めた。貧相な身体をお披露目することにはなるが、ヨシ、着てやろうじゃないか、ひらひらスケスケ。
「ボスーこれどう?」
「青とピンクどっちが好きだ?」
「いや尻出とる!!」
差し出されたOバックに頭を抱えた。そんなところに穴開けるな。
「Tバックよりは布多いじゃねえか」
「そうだよ、あんま我が儘言っちゃダメだぜボス」
「た、確かに……じゃない、くそっ、オレが悪い流れにされる」
抵抗虚しく試着室まで引き摺られた。屠殺場に連れて行かれる子羊の如し。
渡された下着の山には、なんかもうほぼ布きれみたいなものまである。なんだこれ着るものじゃないじゃん。
どこに足を通すんだと矯めつ眇めつしていると、カーテンを閉めずに普通に二人が乗り込んで来た――乗り込んで来た?
「ちょ、ちょ、なんで一緒に入る!?」
「ブラの正しい付け方も分かんねえだろ? 着せてやる」
三人も入ればフィッティングルームはぎちぎちだ。これでは着替えるのも脱ぐのもままならない、更に嫌な予感も同時に覚えていたので、タケミチは一旦外に出ようとした。だがイヌピーにあっさりシャツもインナーも脱がされた。母親に着替えさせられる幼児みたいに。
「待っ、」
「スポブラ〜おい」
ココにぱちんとアンダーのゴムを引っ張られ、「ひん」と身を縮ませる。
「上下も揃ってねーな」
スカートも遠慮なしにがばっとめくられて、タケミチは半泣きになる。そもそも上下セットで下着を買うことがあまりないと白状したら、自分はカラスとかがたくさんいる樹に逆さ吊りにされるのではなかろうか。
「す、すんません……」
「まあ興奮するけど」
「えっ?」
「ん?」
衝撃の発言が聞こえた気がしたが、ココは首を傾げてにこりと笑う。幻聴?
「これが着たいのか?」
「や、違いますイヌピー君、そもそもそれは布の切れ端です、着るモンじゃないです」
これを下着とは認めない。そんな思いで首を振ると、スカートのホックまで外されてぱさっとそれが足元に落ちた。とうとうタケミチは自分の身体を抱き締めて本格的に涙ぐむ。
「一緒のベビードールだけでいいっしょ!? オレ、ぺちゃんこだから本格的なのいらないっすもん!」
自分で言ってて虚しい叫びを上げると、イヌピーの手がすっぽりとブラの上から胸を覆った。そのままむにむにと揉まれて、「ビエッ」とタケミチは肩を跳ねさせた。
「オレはこのままでもいいけど、花垣が大きい方がいいなら手伝う」
そういう話じゃなくない? タケミチの頬にキスしながら「オレの手に収まって可愛い」と自覚なく残酷なことを言うイヌピーに、タケミチは野良犬のように唸った。
「イヌピー君みたいな巨乳にオレの苦しみは分かんないっすよ!」
「こんなもん邪魔なだけだぞ」
「今イヌピー君はオレの敵になりました」
「は? なんでだ」
「いだだだだ、痛い、掴まないで!」
ぐいぐい密着するイヌピーをココは目だけで窘めて、下着の山をごそごそ漁る。
「ひとまず、カワイイランジェリーの下が綿パンはないだろ」
その手にあったのはさっきのOバックだった。詰んだ。
Third phase:キス
明日はパジャマパーティーな。
そう言いしな、ココはタケミチとイヌピーの傍らでメイクを始めた。これからちょっとした商談があるらしい。
タケミチはアジトに持ち込んだ漫画を手に、ココ曰く「戦支度」であるメイクが完成していくのをぼんやり眺めていた。この前はランジェリーショップでいっそ殺せというような目に遭ったが、無事揃いのベビードール(とその他付属品)を手に入れることが出来た。更に、普段使いできるような可愛い下着までプレゼントしてもらった。痴女みたいなやつも紛れていたが。
ココはマスカラを塗りつつ鼻歌を歌っている。ソファーでバイク雑誌を読むイヌピーも、いつもより雰囲気が朗らかだ。二人ともめちゃくちゃ、機嫌がいい。
自分が羞恥心に耐えることで二人がしあわせになるのなら、安いもんではある。喉元過ぎれば熱さ忘れる。地獄の試着室から生還したことで、タケミチも当日が楽しみになってきた。
ココの鼻歌が途切れたので漫画から顔を上げると、彼女は仕上げとばかりにリップスティックを馴染ませている最中だった。手慣れた様子にほうと息をつく。
「きれーな色。ココ君似合うっすね」
鏡を覗き込んでいたココの視線が、傍らのタケミチを向いた。薄い唇には、やや青みが入った深紅のルージュが引かれている。
「ボスってメイクしねーよな」
「んー……あんまり興味が……」
正直、その単語にテンションが上がるタイプの女ではない。率直に言うと好きではなかった。十二年後の未来では仕方なしにファンデーションをはたいていたものの、出来ることならすっぴんがいい。中学生なんて特に肌のハリが違うので、ノーメイクで全く問題なかろうと自由を満喫していた。
「そのうち教えてやるよ」
「オレは花垣の顔にべたべた塗りたくない」
黙ってやり取りを見守っていたイヌピーが、タケミチを抱き締める。ココは芝居がかった仕種で肩を竦めてみせた。
「想像してみろ。メイクしてめちゃくちゃ可愛くなった花垣の後ろに控えて、東卍の連中に見せびらかすだけ見せびらかして、全員ボスに袖にしてもらってそのまま三人でデート行くの。最高じゃね?」
イヌピーは顔を顰め、斜め上を見た。「……いいな」ぽつりと呟く彼女にタケミチの方が顔をくしゃっとさせた。メイクくらいでそんなに変わらないだろうし、自分が多少可愛くなったとしても東卍のみんなには色気づいてんなと笑われるのがオチである。
ちらと綿棒で唇を整えているココをうかがう。美人は顔を塗らなくたって美人だが、塗るともっと美しくなる。顔立ちの印象がよりはっきりと大人びて、凛と艶めくその横顔はタケミチも見惚れるくらいだ。
視線を受けて、鏡を見ていたココの切れ長の目がタケミチを向く。深い艶の出た唇が蠱惑的で、タケミチはどきりとした。涼やかな顔がこちらに近づいてくる。長く密集した睫毛がアップになった。
ぺた、と赤が刷かれた唇が、タケミチの唇とくっついた。
きらきらのラメが散る瞼が離れて、タケミチの視界には伏せていた目を開き、じっとこちらを見つめるココが戻って来た。
あ、少し、口紅剥げちゃってる。
「ん、やっぱ暗い赤はあんましだな。オレンジ系か。コーラルも」
華奢な顎に細い指を添えて分析するココを、タケミチはぽかんと見つめた。
「…………え、」
「ずるい、ココ」
背後から回って来た手に頤を掬われる。真上を向かされると、逆光の中イヌピーがタケミチを見下ろしていた。脱色しまくって傷んだ自分のものとは違う柔らかな金髪が、頬を擽る。
そのまま、イヌピーは真上からぱくっとタケミチの唇を食べた。
「……苦い」
「食うなよ、口紅」
イヌピーの唇にもココと同じ紅色がついているのが見えた。視線を戻すと、ココがクレンジングシートでタケミチの唇をきゅっとなぞる。離れていったそれにも同じ赤がついていた。
「……な、なんで?」
叫ぶタイミングもなくして唖然とするタケミチに、メイクボックスを漁りながらココが「何が?」と何でもないことのように言う。
「き、……きすした」
あまりに平然としているので、え? 気のせい? と一瞬誤魔化されかけた。
「フツーだろ、なあイヌピー」
「ああ」
「う、うそ」
ぶんぶん首を振ると、ココは肩を竦めてタケミチ越しにイヌピーに目配せした。二人は首を伸ばして、自然な仕種でちゅっとキスを交わす。「な?」とココが唇の端を吊り上げた。
「でも、でもヒナとは、ちゅーとかしないし……」
「まあするやつとしないやつはいる。あっちがしないなら花垣もしない方がいいぜ」
「オレたちだけだぞ」
イヌピーの手に優しく髪を梳かれて、言い返せず固まるタケミチの頬にココの手が添えられる。さっきがさっきなのでつい身構えたが、彼女のもう片方の手は別のリキッドルージュがあった。
「ちょっとだけ口開けて」
戸惑いながらも素直に従うと、濡れた感触が唇をすべった。ココは満足そうに笑い、鏡をタケミチに向ける。ヌーディーな薄いピンクが、タケミチのぽかんと開いた唇の上できらきら光っていた。
「明日はちゃんとしような、ボス」
赤く濡れた舌が、深い赤の唇から覗いた。それってメイクのことですよね? と訊けないまま頬を染める。
Last phase:パジャマパーティー
大きな枕をぎゅうぎゅうに抱き締めて、タケミチは視線を忙しなく動かした。
「花垣、見えねえ」
「腹括れよ、いい加減」
ふかふかの枕に顎を埋めて、「だってぇ」と情けない声を上げる。
ココが借りているというマンションの一室は馬鹿みたいに広くて、中央にこれもまた馬鹿みたいにでかいベッドが置いてある。その上に揃いのベビードールで集合し、さあパジャマパーティーの幕開け、と言ったところだが、タケミチはずっとそわそわ身体を揺らしていた。
こんな女の子女の子した服、初めて着た。
二人がセレクトした薄い青のベビードールは、肌触りはとてもいいが胸元はぱっくり空いているし、丈もぎりぎりショーツが隠れるくらいしかない。付け方を教わったガーターとそのベルト、そしてストッキングがシーツにさりさりと擦れて、早く脱いでしまいたい衝動に駆られた。ガーターなんて付ける日が来ると思わなかった。ショーツの下につける物だと知った時の衝撃。
そう、そのショーツ。これが一番不安だ。ローライズのそれはサイドが紐になっていて、防御力が紙なのだ。布だけど。脱がせるための物、という感じがして、勝手に頬が熱を持つ。
そして慣れない格好と同時に、視界の暴力がタケミチから余計に平静を奪っていた。
お揃いにしたランジェリーは、イヌピーが白でココが黒だった。布とはまた違う白さの、ふんわりと丸いイヌピーの胸につい目が行ってしまう。あの谷間は同性だって胸が高鳴る。ココのすらりと伸びた美しい脚も、レースの裾から惜しみなく晒されていた。黒と肌のコントラストが艶めかしくて、悩ましい。視界に「美」がいっぱいある。なんかもうタケミチは鼻血が出そうだった。
昨日は楽しみと思っていたけれど、いざ袖を通してみれば恥ずかしさしかない。
「花垣」
「ボース」
「ふ……」
タケミチは耳まで真っ赤になりながら、枕に顔を押し付けた。
「二人がえっち過ぎるから……」
しおしおと身体を丸める。二人からの返事はなく、さすがに気持ち悪がられたか、とちらりと顔を上げた。
「、あ!?」
しゅるり。
ショーツの右側のリボンがココに突然解かれて、タケミチはばっとそこを押さえた。その隙に、すぽんとイヌピーに枕を取り上げられてしまう。
「あっ、っちょ」
咄嗟に手を伸ばしたが、背後からココに指を絡め取られた。甘い香水の香りが背中に密着する。剥き出しの背中にふにゅんとマシュマロを押し付けられたみたいな感触がして、身体がびくっと跳ねた。
「こ、ココく、当たってる……」
「当ててんだよ」
「ひゃ、」
耳殻を唇で食まれて首を竦めた。くちゅ、と熱い舌が這わされて俯くが逃れられない。一層甘い香りが強まって、くらくらしてくる。
「あ、あ、イヌピー君っ?」
片足を恭しく持ち上げられ、ショーツがめくれてしまわないように必死に押さえた。ストッキングに包まれたふくらはぎをイヌピーに撫でられる。淡い色の唇が、ちゅ、とタケミチの爪先にキスをした。そのまま親指の先を咥えられる。
「き、きたないから!」
「汚くない」
ちろちろと生温かな舌にストッキング越しに爪や硬い皮膚をなめられ、くすぐったいようなむず痒いような変な気分になってくる。ココが器用に片手でガーターを外した。イヌピーにそのままするりと抜き取られる。
「せ、せっかくはいたのに」
「今度着る時はオレが履かせてやる」
足の甲、脛、膝頭とキスしてくるイヌピーに、タケミチの心臓がバクバクと暴れる。
「ふ、あ」
ココの手が下から持ち上げるように胸を揉んで、薄い布が擦れる感触に変に甘ったるい声が唇からまろび出た。それが恥ずかしくて、じわじわ目に涙の膜が張ってくる。それに気づいたココに目じりをぺろ、と舐められた。
イヌピーが臍の上にキスしてきて、ココにはカリカリと布越しに肌を引っ掻かれ、タケミチはとうとうぽろぽろと涙を落とした。
「おこ、怒ったの? あ、謝るから、だからも、寝よ、寝ようよ」
ぐすぐすと鼻を啜ると、二人に顔中にキスをされて「ひぁ」と間抜けな声が漏れる。
「かわいい」
うっとりするような声でそう言われて、イヌピーに口づけられた。柔らかい唇で唇の粘膜を擦られる。唇を啄むようにしていたのが、段々食べるように口全体を覆われる。ランジェリーから零れんばかりの胸にタケミチの慎ましい胸が押し潰されて、心臓の早鐘が密着した肌から伝わりそうだ。ドキドキしているのに、頭はぼうっと熱に浮かされる。
「花垣、目真っ赤でぷるぷるしてて、可愛いな。ウサギみたいだ」
「イヌピーウサギ触ったことあんの」
「ねえ」
「ねーのかよ」
くつくつ喉で笑って、ココはあやすようにタケミチの頭を撫でて頬にキスをする。「大人しくできてイイコだな」囁きは低く掠れて甘い。その優しい手つきはいつもの彼女たちのそれで、なんとなく安心してしまって、自然に身体の力が抜けた。
「お、おこってない?」
「ないない」
ココの指先が、リボンが解けてあらわになった骨盤の尖りをつつ、と撫でた。イヌピーが歯でもう片方のリボンもほどいてしまう。
「いい子いい子、な、ボス。そうだな、一緒に寝ような。せっかくのパジャマパーティーだし」
「ああ、とびきり優しくしてやる。思い出のパーティーにしような」
ココに首筋に吸いつかれ、イヌピーに胸をかぷりと噛まれた。鼻にかかった声を上げて身をよじるが、柔らかい肌や唇に抵抗する力を奪われる。ふにゃふにゃと脱力するタケミチを見下ろして、女神みたいに美しい部下二人が嫣然と笑った。
「お、おかしい!!」
目が覚めると左にイヌピー、右にココが眠っていた。裸で。そして自分も全裸だった。ベッドの端や床には、身につけていたランジェリーたちが散乱している。
外は明るく、雀がちゅんちゅん鳴いている。朝チュン、朝チュンだこれ。
タケミチは全裸で叫んだ。
「オレの知ってるパジャマパーティーじゃない!」
両隣の二人がもそもそと身を起こす。
「……おはよう、花垣」
「朝から元気だなボス……ねむ……」
くあ、と欠伸をする二人に、タケミチはシーツで胸元を隠しながら慌てて顔を覆った。
「イヌピー君前隠して!」
「あ? 今更だろ」
ベッドに胡坐をかくイヌピーの豊満な肢体に、タケミチはあわあわとシーツを顔まで引き上げた。
「散々見たじゃん、昨日」
ココも恥じらうことなく細い脚を組んでいる。ひーっと目線を下に向けた先、見えてしまった、自分の胸元に散らばる赤い痕と歯型。
これは、キスマークというやつでは。
寝起きでまだ靄が掛かっていた頭が、昨夜の記憶を再生する。二人に全身撫でられ、あらぬところに舌を這わされ、何がなんだから分からなくなってとろとろになりながら甲高い声を上げ――
「ウッ、ウワーッ!!」
「お、なんだ?」
「どうした、どこか痛ぇのか?」
ベッドに突っ伏すように蹲ると、ぽんぽん頭やら背中やらを叩かれる。タケミチは目に涙を溜めてがばっと顔を上げた。
「こ、これおかしいっすよね!?」
「え、今更?」
言葉じりにカッコ笑いが二、三個付きそうな感じでココに言われた。
「ほんとにちょろ過ぎて心配だよ、部下としちゃ。オレらの言うこと以外は全部疑ってかかるんだぞ?」
「大丈夫だ、オレたちが守ってやる」
鯉のように口をぱくぱくと動かすタケミチの頭に、イヌピーが何度もキスしてきた。喉を擽られるとはふ、と身体が弛緩する。また流されそうになって、イヤイヤと首を振った。
「昨日の、あれ、あれって」
顔がこれ以上ないくらい真っ赤になる。昨夜のふわふわした夢みたいな出来事が脳裏に蘇った。ところどころあやふやだけど、しっかり覚えている。たぶんもう全身、二人に触られてないところがない。
赤面してフリーズするタケミチに、ココがにやぁと意地の悪い笑みを浮かべた。
「何思い出しちゃったんだ? ボスのえっち」
「……!?」
首や胸元まで赤くなると、耳元でくす、とめずらしくイヌピーが笑った。
「すけべだな、花垣」
「おっ、オレじゃないもん!!」
シーツを引っ被って籠城を決め込もうとしたが、二人に剥ぎ取られる。脇腹やら項やらをさわさわと撫でられると、変な声が出そうだ。
イヌピーがするんと尻を撫でてくる。ココにつんと胸をつつかれた。
「花垣のハジメテ、もらっちまったな」
「うううう」
「オレらも初めてだったし、責任取ってくれるよな、ボース?」
「当たり屋過ぎる……!」
二人が至極嬉しそうに笑った。こっちが嫌いになれないって知ってて、こんにゃろう、問題児の部下たちめ。
外では何も知らない雀が、チュンチュンと呑気に鳴いていた。
・みっち♀
胸が貧しい。これから二人が責任をもって育てる。女子相手だとアホほどちょろい。可愛い部下相手だと倍ちょろい。ここくんたちのおかげでちょっとずつ綺麗になっていき、思春期のちふくんがドキドキしている。
・いぬぴ♀
巨乳。喧嘩するのに邪魔だがみっちを埋めれるのはいいなと思ってる。ここくんの香水を「臭ぇ」と吐き捨ててゲンコツ食らったことがある。ちふくんと仲がくそ悪い。顔を合わせるたびバチバチしている。
・ここくん♀
美脚。みっちを磨くのが趣味。ボスが自分たちに甘いのを利用していぬぴと共に漬け込んでいる。東卍の集会でべたべたみっちにくっつきまくり、みっちの死角で他の東卍メンバーに中指立てて舌を出している。