シンフォニー・カンパニー
「……あ」
スポーツバッグの中を覗き込んだ黒子は、中をごそごそと漁ってから一つ頷いた。
「ちょっと僕購買行ってきますね」
「え、どしたの」
「弁当を忘れたのか」
「忘れました。道理でなんか鞄軽いなと」
高尾も緑間も当人の黒子よりそれぞれにやってしまったな、という顔をした。昼休みに食べながら部活の会議をするというから、購買を通り過ぎて部室まで来たというのについていない。
「えーでももういいやつ残ってないんじゃない? この時間帯って戦争じゃん」
仕方なく財布を取り出した黒子の裾を高尾が引っ張る。
「僕ならいけます」
「どんな自信よ」
「おい、黒子」
二人が同時に振り向けば、箸で弁当の蓋に自分の昼食を取り分ける緑間の姿があった。
「購買のものでは栄養が偏るだろう。割り箸もあるぞ」
食べるのだよ、と差し出されるバランスの取れた料理たち。
「ちょ、おかん」
「誰がだ」
「……いえ、あの緑間君。さすがにいただけません」
両手を立てて遠慮と拒否を示す黒子に、更にずいと押し付ける。
「仮にもスポーツマンが身体を蔑ろにするな」
「してませんから、これは」
「まあそう言わずにさあ。貰っとけよ黒子。俺もあげる」
「いや、ですから」
「卵焼き出汁派? 甘い派?」
弁当箱の蓋に次々盛られてゆく料理を前に黒子はしばらく逡巡して、最後には諦めて肩を落とした。
「ありがとうございます……」
すとんとベンチに腰を下ろすと突き出されたままの弁当の蓋を受け取る。そこに高尾が更に料理を乗せた。
「このきんぴらの旨さは保証する」
「ありがとうございます……今度何か奢りますね」
「じゃあ二人でマジバ行こうぜ」
「おい」
「三人で行きましょうか」
ぱきんと割り箸が割れるのと、ぎいっと錆びた扉が開くのは同時だった。
「よーす」
「待たせた」
「ちーす先輩」
宮地、木村、大坪の三年陣が次々とさほど部室の中へ続く。一番はじめに黒子に目を止めたのは、最後に扉を閉めた大坪だった。
「どうしたんだ、黒子」
「お弁当を忘れてしまって……二人が分けてくれたんです」
「分けたっていうか押し付けたってゆーか」
「健康管理は当たり前なので」
こいつら仲いいな、が三年生全員の意見である。
「それだと足りないだろう」
「いえ、僕は十分………宮地先輩…」
いきなり隣から伸びた箸が、卵焼きの隣に唐揚げを置いた。
「肉も食え、肉も」
「ビタミンとかも摂れよ」
宮地が乗せた唐揚げの横に、木村の箸が林檎を落とす。
「炭水化物が一番だろう、やっぱり」
大坪が小さめのおにぎりを並べれば、もう蓋の上からいろいろと転げ落ちそうになった。
「あの、有難いですし気持ちは嬉しいんですが」
左右不揃いに割れた箸を握りながら、黒子がうっすらと眉間に皺を寄せる。
「………もしかして、楽しんでますか?」
部員たちは顔を見合わせた。
いや、そんなことはない。
何故笑ってるんですか。
シンフォニー・カンパニー ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
>>風鳴翼様
企画に参加していただきありがとうございました。管理人の凍です
大変お待たせしてしまい申し訳ありませんでした……
もう一度黒子in秀徳が書けて楽しかったです。キセキの学校の中では、多分秀徳が一番黒子が自然でいられるのではと思います
長い時間を掛けてしまいましたが、宜しければこれからもお付き合いください。ありがとうございました